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SAKURA (さくら)

第2章 ソメイヨシノ 1  弥生

 3 

 慶太くんは、わたしを見つめ…

「き、今日は…
 や、破け…て……ないん……すね………」

 そう、呟き…
 触れている指先に、力を込めてきた。

「え…あ……」

 その指先が、熱い―――

「あ、うん……」
 
 わたしも、熱い―――

 この前の、残業をお願いした週末も…
 
 破けていたから。

 ううん…

 慶太くんに甘えたくて…

 誘いたくて…
 
 こっそりと、自分で破った。

 だから…

「き、今日は……まだ………ね………」

 わたしは…

 絡めた指先に力を込めて、囁いた。

「え…」
 
 逸れずに、見つめ…

「ま、まだ……ね………」

「………」

 慶太くんの、喉が鳴った―――


「ようやく、渋滞抜けましたよ…」

「………っ」

 運転手のその声が、心に入り…
 指先を緩め、顔を上げる。

「あ、よかったわ…」

「そ、そうっすね」
 慶太くんも手を戻し、前を向く。

「さ、お仕事…よ…」
 
「あ、はい……」
 それは、自分自身に、言い聞かせる言葉。

「あ、そういえば、部長に昇進するんすか」

「え…」

「なんか、皆、噂してるから…」

「あ…うん、噂よ、噂……」

「あ、そうなんすかぁ……」

「うん…噂な、だけ……」

 考えたくも、なかった―――

「あ、そういえば、美卯さん、異動しちゃったのね」

「あ、はい…事業計画部っすね」

「え、そうなの」

「はい…」

 それは、夫の直属の部署…

 そして、色違いのネクタイ…

 これも、嫌なリアル―――

「じゃ、寂しいわね」

「いや、気楽になったっす」

「え、そうなの?」

「あ、はい、美卯、意外と細かいんで…」

「へぇ…そうなんだぁ…
 でも、それは、慶太くんのことが好きだからでしょう」

「いや、ま、でも、うるさかったんすよ」

「そうなんだぁ…」

 それは…

 付き合い当初…

 結婚したばかり…

 わたしにだって、あった……

 でも、今は―――

「さ、着いたわよ、さっさと仕事しちゃいましょう」

 そう…

 早く、終わらせたい―――

 このままじゃ、止められないから。

 だから…

 早く、終わらせて―――


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