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SAKURA (さくら)

第5章 八重桜 1 弥生

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「慶太くん、今日も同行営業するわよ…」

「え、弥生課長…」

「うん…
 今日も……ね………」

 慶太の目が、逸れなくなった。

 この前までは…

 残業を誘い…

 ストッキングのほころび…だった――

 だけど…

『もう、破かなくっていいっすから……』

『俺が、破かせないっす……』

 だからもう、自分からは、破かない。

 ただ…

 こうして、きっかけだけを与えるだけ――
 
「慶太くんは、入社何年目だっけ?」

「あ、四年目に、なりました」

「そうか…
 じゃ、やっぱり、今年が勝負ね」

「え、勝負って?」

「この先の為にも、今年頑張るってことよ」

 これは、周りに対しての、いいわけ――

「あ、はい…」

「だから、これからも、ガンガン同行営業に、行くわよっ」

 わたし自身への、言葉――

 なぜなら、まだ、慶太くんは若いから…

 まだ、薬指を外せていないから…

 もう、わたしは、戻れないから――

 ストッキングを破かなくても…

 こうして、まだ…

 彼の勇気を、奮い起たせるしかないから。

「去年もさ、ガンガンと、同行営業したものよ…」
 わたしは、タクシーに乗るなり、そう言う。

「えっ、そ、そうなんすか」
 揺らぐ目で、訊いてきた。

「う、うん…」

「そ…そうなん…すね……」

 わたしは、その目、声音に…
 一気に、心の昂ぶりを感じてしまう。

 だって…

「あ…もう、バカねぇ…」

「え…」

 胸が、跳ねる…

「去年の…子は……さぁ………」

 わたしは、慶太くんの手を握り…

 そして、膝へと導き…

「もう、バカねぇ…」

 膝が、熱くなり…

 また爪を立て、破きたくなってしまう――

「……」

「去年の子は…女の子…だから…ね…」

「えっ、あっ」

 慶太くんの顔が、パアッと晴れていく…

「もう…バカなんだからぁ…」

 昂ぶりは、高鳴りとなり…

 心が、弾む。

 こんな、昂ぶりは……

 あの時、以来……


 よみがえる、あの懐かしい思い――


『弥生くん、心配いらないよ、私が一緒なんだから…』

『そうですよね、部長がご一緒してくださるんですものね…』

 よみがえる、あの時の会話…

 そして、付き合うきっかけ――

「そ、そうっすかぁ…」

「うん…」

 もう――
 

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