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『何もしないの?』

第1章 何もしないよね?…

 2

「さぁ、どうぞ上がって…」

「はい、失礼します」
 美冴先輩のマンションは本当に近かった。

「何か飲む?」

「あ、はい、水がいいっす」

「そうなんだぁ…
 わたしは、もうちょっと飲んじゃおう」
 と、美冴先輩はオレにミネラルウォーターのペットボトルを手渡し…
 自分では、缶チューハイを開けた。

「ふぅ、じゃ、カンパーイ」
 
「あ、は、はい」

「実はね、みんなの前だから、遠慮してたんだぁ…」
 そう言いながら、ペロっと舌を出した。

「あ、そ、そうなんすか」

「うん、そうなんす」

 うわぁ…
 そんな美冴先輩が、あまりにも可愛くて、オレは一気に舞い上がってしまう。

「さ、映画見よ…ほら、こっち、ここに座ってぇ…」
 と、二人掛けのソファを指差してくる。

「ほらぁ、キョロキョロしないの」

「あ、は、はい…」

「さてはぁ女子の部屋、あまり来た経験が無いなぁ…」

「は、はい」

「じゃ、やっぱりぃ、彼女いないんだぁ?」

「は、はい、かれこれ五年いないっす」

「え、五年も?」

「は、はい、大学からっす」

「ふぅん、そうなんだぁ」

 そう美冴先輩は呟きながら、テレビのセットをし…

「あ…」

「……」
 ピタリと並び、肩を寄せ、映画を見始める。

「あっ」

「きゃっ」

「ひっ」

「うわっ」
 美冴先輩は、そんな小さな声と、リアクションで映画を見ていたのだが…

「………」 
 いつの間にか…

「あ…」
 オレの肩に頭を乗せて、寝てしまっていた。

「………」
 ドキドキしていた…
 だって、寄りかかる彼女の髪から甘いシャンプーの香りが漂い…
 心を激しく擽ってきていたから。

 でも…
『何もしないよね?』
 さっきの言葉に、心に楔を打ち込まれ、身動き一つも出来ないでいた。

「……」
 いつの間にか映画が終わり、静かにエンドクレジットが流れていた。

「あ…」

 その時…
 スッと、オレの手に美冴先輩の指先が触れてきて…

「ね、ねぇ…」
 耳元で、小さく囁いてきたのだ。

「ね、ねぇ…」

「……」

「本当に…何も……」

「っ……」

 それが、オレの、オトコを、オスを呼び覚ます――
 
「本当に何も…しない…つもりなの……」

 女心
 繕う嘘の
 その奥に
 言えぬ想いが
 息を吐き出す

 終り――


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