テキストサイズ

お題小説第7弾「薔薇の名前」

第1章 薔薇の名前

☆☆☆
「おう!梨紗、来たか」
「…先輩」

大学図書館の屋上
本当は出てはいけないのかもしれないのだけど、
セキュリティが甘く、一部の学生の間では秘密の休憩場所、みたいな扱いになっている。

そして、私と先輩との間では、また別の意味があった。

一年前、私が次代のキャプテンに指名された時、
私は思い切って白波瀬先輩に告白をした。

この場所で。
よく晴れたある早春の日だった。

断られると思っていたのだ。
そして、断られたら諦めよう、そう自分に言い聞かせていた。

私の告白を聞いて、
先輩はじっと黙っていた。
私を見つめる目はゆるぎもしなかった。

5秒、10秒…そして、30秒が経った。

いつの間にか私はじっと息を止めていた。
風が静かに過ぎた時、
先輩の頬が少し緩んだ。

『ありがとう、梨紗』

その言葉が胸に落ちて、
私の目からは涙が零れた。

もう、この先の言葉が何でもいいと思った。
たとえ『でも、ごめん』でも。

私の思いが伝わった、それだけでいいと…思ったのだ。
でも先輩が言った言葉は私の思っていたどの言葉とも違った。

『1年、待ってくれ』
『え…?』
『今、あたし、いろいろあって、ちゃんと梨紗に向き合えない。
 でも、一年経てば、ちゃんとできると思うんだ』

ー梨紗の気持ちにちゃんと応えたいから…

それが、先輩のその時の返事だった。

そして、1年が過ぎた。
先輩の『いろいろ』はどうにかなったのだろうか。
なにか、変わったのだろうか。

見た目は全く変わってない。
先輩はいつも、凛としていて、美しくて、
誰に対しても親切で、笑顔が素敵で…

先輩はあの日のまま、だった。

でも私は…
変わってしまったのだ。

「あの時の返事…」
「待って!」

先輩が口を開いたとき、私は思わず叫んでいた。
そんな私を見て、先輩が不思議そうな顔をしている。

言わなきゃ…。
そうだよ、言わなきゃだよ、ちゃんと…。

「わ…私、も、もう先輩のこと、
 好きじゃないから」

足が、震えそうになる。
声は少し震えていた。

それでも、精一杯の笑顔で、
口角を無理やり釣り上げて。

にじみそうになる涙を必死でこらえて。

「だから、もう、返事とか、いいですから」

ストーリーメニュー

TOPTOPへ