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万華のむつごと

第5章 二十年後の夏祭り

「おしょさん、見て」

日本舞踊の教室で子供たちに稽古をつけている透子は、教え子から“おしょさん”―お師匠さん―と呼ばれている。

振り向くと、声を上げた浴衣姿の少女の小さな手の中に、赤い筒があるのが見えた。

「万華鏡、くじ引きでとったの・・・あっ」

小さな手から筒が滑り落ち、指先が暗闇を掴んだ。

参道の石畳を弾むように転がる万華鏡を、透子は手を伸ばして追いかけた。
赤いちりめんの鞠文様の筒は、手を伸ばす透子の指先から逃げるように人ごみの足元を転がってすり抜ける。
いくつもの草履つま先に蹴飛ばされ、何度も方向を変え、万華鏡は最後に男の雪駄の足の間で止まった。

男が気づいて、拾い上げた。

駆け寄る少女に目線を合わせるようにしゃがむと、ちょっとだけ見せてくれるか、と少女に微笑んだ。

「うんいいよ。いっぱいくるくる回していいよ」

少女が自慢げに言うと、男はまた笑って、露店が夜空に滲ませるオレンジ色の灯りに向かって筒を覗き、可愛い玩具に不似合いな武骨な手先で回転させる。

のぞき穴から目を外し、教え子に手渡す。

「綺麗だな」

男は言った。

そのとき、透子ははっと目を見張った。
少女に向かって微笑んで目を細めた瞬間、男の目尻からひとすじ流れ落ちる光るものがあった。

「中のキラキラが、いろんなお花の形になるでしょ。でもね、絶対に同じ形の花はできないんだって」

少女は胸を反らせて言うと、透子の手を取って、元居た場所へと引き返す。

透子は男の方を振り返ったが、もうその法被姿は人ごみに紛れて消えていた。


何か悲しい事でも思い出していたのだろうか。
暗闇の中で見えないものを探っているかのような、濃密な黒い幕を引いたような目が、透子の心にひっかかった。

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