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君の体温は義務だった

第2章 通知

【今月の抱擁パートナーが決定しました】

歯磨きをしながら、ロック画面の通知を横目で見る。

『8月12日 19:00 中央区ハグステーション3番』
『相手:識別番号 H-08341』

名前も、年齢も、職業も表示されない。

表示されるのは、遅刻回数と過去十二か月の義務履行率だけ。

「……めんどくせ。」

スマホ画面を落とす。

今日は一日、雨らしい。

お天気お姉さんが、今日は傘を持ち歩きましょうって言ってた。

この分だと洗濯物は近所のコインランドリー行きか、明日まとめてやっつけるかのどちらかだ。

どうせ独り身。量は多くない。

そのくらい夜の俺が何とかするだろう。

顔を洗い、黒いパーカーを羽織る。

ノートPCが入ったリュックを肩に引っ掛け、玄関先で傘を開いた。

今日の雨は強すぎず弱すぎず、一番イヤな降り方をしている。
いっそ土砂降りなら電車動かないからお休みしますって言い訳できるのに。

「仕事行くのやめちゃう?」

俺の中にいる悪魔は今日も営業熱心だ。
——いっそ見習おうか。

なんて一人漫才してたって、仕事はどっかに行ってくれない。

諦めて駅までの道を歩く。

前を歩くサラリーマンが、濡れたスーツの裾を気にしてしかめ面をしている。

わかるよわかる、俺のスニーカーも今ピンチだし。
せめて替えの靴下持ってくればよかった。

改札が見えてくる。

朝の通勤ラッシュは今日も変わらない。
やれやれ。

改札を抜けようとして、何となくスマホを取り出す。

画面の一番上には、さっきの通知がまだ残っていた。

【今月の抱擁パートナーが決定しました】

……今日は月初め。

抱擁通知の日だ。

この制度自体は別に否定しない。
悪いことばかりじゃないし。

でも、一回日にちが指定されたらあんまり融通が利かない上に、仕事帰りに寄るのも面倒だ。

ただでさえ疲れてるのに。

小さく息をつき、電車に乗り込む。

ドア横にもたれ、大きく一つあくびをした。

「……ねむ。」

窓を流れる雨粒をぼんやり眺めてると、「抱擁は、あなたと社会の健康習慣です。」って謳い文句が書いてある電車内の広告が目に入る。

うん。

今だけでも、今だけでも、目を逸らさせていただきます。

考えない時間、大事。

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