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君の体温は義務だった

第3章 体温

……誰かに連絡しようか。

一瞬、そんな考えが頭をよぎった。

けれど、すぐに指がピタリと止まる。

画面に並ぶ名前を見つめながら、ハッとした。
連絡したところで、一体何を話すんだ?
特に用事なんてない。こんな時間にいっそ突然連絡したりしたら、変に思われるに決まっている。

「……いや。」

自意識過剰な自分に呆れて、スマホを閉じかけた。
それでも未練がましくもう一度だけ連絡先を眺め、結局、何もできずに画面を落とした。

「……まあ、いいか。」

小さく息を吐き、スマホを裏返しにしてテーブルの上に置く。

その時、ふと思った。

もし今日の俺という人間を、あのHUG Bandの数字だけで説明するのだとしたら、きっと『安定』というたった一言で片付けられてしまうのだろう。

健康。正常。問題なし。
システムにとっても社会にとっても都合の良い、完璧に管理された一日。

でも。

その冷たい言葉やデータでは決して拾い上げることができないものが、今日の俺には確かに一つだけあった。

朝の階段で巡り会った、あの一瞬。
名前も知らない彼の、あの奇跡みたいな笑顔。

俺は薄暗い部屋の中でそれを思い出し、また少しだけ口元を緩めた。
本当に、自分でも引くくらい、ほんの少しだけ。

静けさの中に落ちていく感覚を振り払うように、俺はソファから立ち上がった。

「プリン食うか。」

足早にキッチンへ向かい、冷蔵庫のドアを開ける。
冷気とともに、眩しい白い光が夜の部屋と俺の顔を明るく照らし出した。

奥から取り出したプリンのパッケージを見る。
賞味期限は明日。

「……お前も、ちゃんと終わりは決まってるんだな。」

ぽつりと話しかけてみたけれど、プリンはやっぱり、何も言わなかった。
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