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My Godness~俺の女神~

第6章 ♯Conflict(葛藤)♯

「また来るわね」
 実沙が名残惜しげに言い、蒼い絨毯の廊下を歩いてゆく。途中で一度振り返るのは判っていたから、悠理もまだその場所に立っていた。こういうこともホストであれば、気を抜かないものだ。
 微笑んで見せると、女は嬉しげに頷き、今度こそ意を決したように歩み去っていった。
 思わず大息をつき、部屋のドアを閉める。
 先刻まで女と座っていたソファにドサリと身を投げ出し、横になった。
 またしても、あの女の泣き顔がちらつく。
 途端に自分でも言い表しがたい烈しい感情が湧き上がってきて、悠理は部屋に備え付けの冷蔵庫からチューハイを出した。プルタブを引き抜き、ひと息に飲み干す。よく冷えた甘い液体が喉をすべり落ちてゆく感触は実に心地よかった。
 と、ドアを外側から誰かがノックする。
「どうぞ」
 投げやりに言ったのが聞こえなかったのかどうか。言い終わる前に、ドアが開いた。
「おう」
 悠理はだらしなくソファに寝っ転がったまま、片手を上げた。挨拶代わりのつもりだ。
 しかし、突如として入ってきた親友は珍しく精悍な顔を強ばらせていた。
「昼日中からアルコールとは結構なことだな。店の規則では客には飲ませても、俺たちは店内では飲むなと言われてるだろう」
 こりゃ、どうも機嫌が悪いな。
 悠理は大袈裟に肩を竦めた。
「店の規則なんて糞くらえだ。俺の知ったことじゃねえや」
 わざと蓮っ葉に言うと、柊路は呆れたように言った。
「また、来てたのか?」
 主語は省略しているが、柊路が言いたいのが藤堂実沙であることは明らかだ。
「客のプライベートについては一切、他言無用。それが店のルールだろ。お前の方こそ、忘れたのか?」
 皮肉っぽく言う。
 柊路はそれには取り合わず、歯を食いしばった。唇を真一文字に結んでいる。何か表情を作ろうとして口許を歪めたが失敗したという感じだ。
「母親より年上の女とよくもやってられるな。恥ずかしくはないのか?」
 いきなり言葉を突きつけられ、悠理は眼を剥いた。

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