My Godness~俺の女神~
第1章 Prologue~序章~
俺は女が犬に餌でも投げるように渡してきた千円を握りしめ、部屋の外に出た。ソファとガラステーブルの他には小さな冷蔵庫とクローゼットがあるだけの個室は、けして狭くはない。モノトーンで統一された室内はシンプルだがオシャレなはずなのに、俺はこの殺風景な部屋が大嫌いだ。
日常に倦んだ女が若い男を買い、束の間の憂さを晴らす場所。そんな風に思い込んでいるせいだろうか。
部屋から一歩出ると、何かホッとする。生き返ったような心地がして、蒼い絨毯の敷き詰められた廊下を玄関フロアに向かって歩く。
女性客は、夕方から雨だと言っていたが、そういう俺自身も傘は持ってきていない。まあ、ついでにこの千円で俺のビニール傘も買わせて貰おう。たかだかビニール傘を買うのに千円札をよこすくらいだから、おつりがなくても、文句は言わないだろう。
大体、そんな金銭感覚の正常な女なら、真昼間から家族に内緒でホストクラブなんかには来ない。
フロアまで出ても、そこには人はいない。いつものようにホストたち全員のパネル写真がズラリと並んでいるだけだ。
客たちはまずここで指名したいホストを選び、パネルの側にあるインターフォンを鳴らす。すると、常駐の控え室に待機している支配人が揉み手をしながら遊女を売る女郎屋の女将よろしく飛んで出迎えるという仕組みになっている。
俺は一旦立ち止まり、パネル写真の一角を見つめた。指名率の最も多いナンバーワンの俺はいちばん上にいる。茶色がかった髪は何も染めているわけではなく、全くの自前だ。
自分でいうのも何だが、確かに向井ナントカという俳優に似ている。俺はあんまりテレビは見ないから、俳優とか女優なんて有名人の顔も名前も知らない。
以前、早妃が何かのドラマを見ていたら突然、
―ねえ、あたし、前から思ってたんだけど、悠君って、向井理に似てるね。
と俺を冷やかしてきたことがあった。
他の誰に言われても別に嬉しくも何ともないが、早妃だけは別だ。俺は柄にもなく照れくさくて、
―馬鹿言ってんじゃねえよ。
なんて、わざと渋面拵えて言ったけど。
本当はかなり嬉しかったんだ。
日常に倦んだ女が若い男を買い、束の間の憂さを晴らす場所。そんな風に思い込んでいるせいだろうか。
部屋から一歩出ると、何かホッとする。生き返ったような心地がして、蒼い絨毯の敷き詰められた廊下を玄関フロアに向かって歩く。
女性客は、夕方から雨だと言っていたが、そういう俺自身も傘は持ってきていない。まあ、ついでにこの千円で俺のビニール傘も買わせて貰おう。たかだかビニール傘を買うのに千円札をよこすくらいだから、おつりがなくても、文句は言わないだろう。
大体、そんな金銭感覚の正常な女なら、真昼間から家族に内緒でホストクラブなんかには来ない。
フロアまで出ても、そこには人はいない。いつものようにホストたち全員のパネル写真がズラリと並んでいるだけだ。
客たちはまずここで指名したいホストを選び、パネルの側にあるインターフォンを鳴らす。すると、常駐の控え室に待機している支配人が揉み手をしながら遊女を売る女郎屋の女将よろしく飛んで出迎えるという仕組みになっている。
俺は一旦立ち止まり、パネル写真の一角を見つめた。指名率の最も多いナンバーワンの俺はいちばん上にいる。茶色がかった髪は何も染めているわけではなく、全くの自前だ。
自分でいうのも何だが、確かに向井ナントカという俳優に似ている。俺はあんまりテレビは見ないから、俳優とか女優なんて有名人の顔も名前も知らない。
以前、早妃が何かのドラマを見ていたら突然、
―ねえ、あたし、前から思ってたんだけど、悠君って、向井理に似てるね。
と俺を冷やかしてきたことがあった。
他の誰に言われても別に嬉しくも何ともないが、早妃だけは別だ。俺は柄にもなく照れくさくて、
―馬鹿言ってんじゃねえよ。
なんて、わざと渋面拵えて言ったけど。
本当はかなり嬉しかったんだ。