My Godness~俺の女神~
第1章 Prologue~序章~
早妃、俺の女神。早妃は俺にとってはただ一人の女神さまだから、早妃に褒められれば、天にも昇る心地になれる。
今日は雨だし、ずっと布団の中にいなきゃならない早妃のことも気になるし、早退させて貰うか。
俺は呑気に考えながら、店の自動ドアから歩道に出た。女の言うとおり、確かに雨は降っていた。
アスファルトが雨に濡れた匂いが鼻をつく。俺は雨の匂いが嫌いではない。深呼吸して思い切り雨の匂いを胸に吸い込んでいると、歩道沿いに一定の間隔をあけて立つ桜並木が眼に入った。
今年の春は桜の開花が早かったから、もう満開だ。この雨でかなり散るかもしれない。俺の店はF駅からほど近い繁華街ともいえない商店街の街角にある。駅前といったって、急行や特急も素通りする小さな駅だし、商店街の店も昔からどこにでもあるような古びたものばかりだ。
それでも、この店が結構繁盛しているのは、今風のイケメン揃いだという口コミと、かえって人眼につきにくい場所にあるからだといわれている。
桜が雨に打たれ、しっとりと良い感じだ。そういえば、今年は俺が忙しかったし、早妃も寝たきりの生活で、花見にも行けなかった。まあ、来年には親子三人で行けば良い。
早産気味だとはいえ、早妃もお腹の赤ん坊も順調な経過を辿っていると聞いている。問題はないだろう。
あと三ヶ月で、待望の我が子に逢える。俺は口笛を吹きながら、隣のコンビニに向かった。昔から大好きな雨が大嫌いになるだなんて、そのときは考えもしなかった。
あれから二ヶ月経った今でも、俺は相変わらず店にいて、惚れてもいない女性客の手を握り、愛想を振りまいている。
生まれるはずだった赤ん坊も早妃ももう、この世にはいない。どこを探してもいない。俺の心の中で何かが壊れてゆく。
「香奈恵さん、今日のワンピース、物凄くお似合いですよ。何かこう、ぐっときちゃいま
すね。凄いセクシー」
三十代後半だという女性客に囁きながら、もう一人の俺は泣いている。
お前はここで何をしているんだ。
ああ、どこかに行ってしまえるものなら、行きたい。ここではないどこかへ。
今日は雨だし、ずっと布団の中にいなきゃならない早妃のことも気になるし、早退させて貰うか。
俺は呑気に考えながら、店の自動ドアから歩道に出た。女の言うとおり、確かに雨は降っていた。
アスファルトが雨に濡れた匂いが鼻をつく。俺は雨の匂いが嫌いではない。深呼吸して思い切り雨の匂いを胸に吸い込んでいると、歩道沿いに一定の間隔をあけて立つ桜並木が眼に入った。
今年の春は桜の開花が早かったから、もう満開だ。この雨でかなり散るかもしれない。俺の店はF駅からほど近い繁華街ともいえない商店街の街角にある。駅前といったって、急行や特急も素通りする小さな駅だし、商店街の店も昔からどこにでもあるような古びたものばかりだ。
それでも、この店が結構繁盛しているのは、今風のイケメン揃いだという口コミと、かえって人眼につきにくい場所にあるからだといわれている。
桜が雨に打たれ、しっとりと良い感じだ。そういえば、今年は俺が忙しかったし、早妃も寝たきりの生活で、花見にも行けなかった。まあ、来年には親子三人で行けば良い。
早産気味だとはいえ、早妃もお腹の赤ん坊も順調な経過を辿っていると聞いている。問題はないだろう。
あと三ヶ月で、待望の我が子に逢える。俺は口笛を吹きながら、隣のコンビニに向かった。昔から大好きな雨が大嫌いになるだなんて、そのときは考えもしなかった。
あれから二ヶ月経った今でも、俺は相変わらず店にいて、惚れてもいない女性客の手を握り、愛想を振りまいている。
生まれるはずだった赤ん坊も早妃ももう、この世にはいない。どこを探してもいない。俺の心の中で何かが壊れてゆく。
「香奈恵さん、今日のワンピース、物凄くお似合いですよ。何かこう、ぐっときちゃいま
すね。凄いセクシー」
三十代後半だという女性客に囁きながら、もう一人の俺は泣いている。
お前はここで何をしているんだ。
ああ、どこかに行ってしまえるものなら、行きたい。ここではないどこかへ。