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My Godness~俺の女神~

第7章 ♯Pray(祈り)♯

 実里は長い間、その場に跪いていた。海に面した高台の墓地は吹きすさぶ風もいっそう冷たかった。臨月も近くなったというのに、風邪を引いてはまずいと思い、そろそろ帰ろうと立ち上がったときである。
 腰に鈍痛を憶えて、思わず顔をしかめた。
またいつもの腰痛だろうと腰をさすってみたが、痛みは治まるどころか余計に烈しくなるばかりである。
 ふいに激痛が腰から腹部にかけて走り、実里は小さなうめき声を上げて頽れた。
―痛い―。
 腹を押さえながら、実里はその場に倒れた。
 痛みはひっきりなしにやってくる。まるで波が寄せるように、少し楽になったかと思えばまたぶり返しながら、確実に強くなっていった。
 やがて、生暖かいものが下腹部から溢れ出し、太腿をつたい落ちてゆくのが判った。
―まさか。
 実里は蒼褪めた。初産なので知識でしか知り得ようがないが、これは陣痛の始まりではないのか。今、ほとばしるように下肢を濡らしているのは、破水なのかもしれない。
 どうしよう。
 実里は懸命に身を起こそうしたが、痛みは増すばかりで、身動きもできない。その間にもひっきりなしに痛みが襲ってきて、実里はパニックに陥った。
「―誰か、誰か来て」
 しかし、こんな真冬の平日に辺鄙な墓地を訪れる人はいなかった。
 このままでは出産が始まってしまう。
 実里は恐慌状態になりながら助けを求め続けた。
 その時、誰かが駆け寄ってきて、実里は逞しい腕に抱き起こされた。
「大丈夫か?」
 この声は―。
「柊路さん?」
 うわ言のように呼ぶと、相手が息を呑む気配がした。
 またひときわ烈しい痛みが直撃した。実里は痛みに顔を歪めながら、必死で訴える。
「お願いです、助けて。赤ちゃんが、赤ちゃんが生まれそうなんです」
 既に意識は朦朧としていた。
「おい、しっかりしろ、眼を開けろ。眼を開けてくれ」
 声は若い男のものだった。この人が親切な人ならば良い。もしそうなら、病院まで連れていってくれるだろう―。
 そこまで考えて、実里の意識は完全に闇に飲み込まれた。

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