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My Godness~俺の女神~

第7章 ♯Pray(祈り)♯

 悠理は意識を失った実里を苦労して背負った。実里の下半身はしとどに濡れている。ズボンがぐっしょりと濡れていた。
 やはり、これは尋常ではなさそうだ。実里の言うように、赤ん坊が生まれてこようとしているのかもしれない。
 とりあえず墓地を出て住宅街の見える坂まで戻ると、携帯で救急車を呼んだ。
 緊急を要すると判断した救急隊員は実里をI町の総合病院に運んだ。
 ストレッチャーに乗せて運ばれていく実里は、死んだように顔色が悪い。そのやつれ果てた顔は、やはり同じように病院のストレッチャーに乗っていた早妃の死に顔と重なった。
 刹那、悠理の中に烈しい感情が湧き起こった。
「失礼ですが、どういうご関係の方ですか?」
 看護士に訊ねられ、悠理は即答した。
「赤ん坊の父親です」
 流石に〝夫〟とは言えなかった。
「先生、お願いします、俺の子どもを助けて下さい」
 ストレッチャーについて分娩室に入る白衣姿の医師に、悠理は取り縋った。
「お産がもう始まっているようです。破水もしていますので、今夜中には生まれるでしょう」
 まだ若い医師は事務的な口調で告げると、慌ただしく分娩室に消えた。
 しかし、事態はそう簡単には進まなかった。
 悠理にとって、その夜は二十二年の生涯で最も長い夜となった。
 彼は分娩室の前の椅子に座り、耳を澄ませて産声が聞こえてくるのを今か今かと待ち続けたが、聞こえてくるのは実里のうめき声と悲鳴だけだ。 
 まるで、どのような酷い折檻を受けているのではないかと心配しそうになるほど、すさまじい声がひっきりなしに聞こえる。
「頑張ってね、もう少しよ」
 付きそう看護士たちの励ます声も混じっている。
 分娩室に入ってから数時間経過した頃、医師が一度、出てきた。その深刻な表情から、悠理は実里の出産が順調ではないのだと悟った。
「先生、どんな様子ですか?」
 待ちかねたように問えば、医師は難しい顔で首を傾げた。

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