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My Godness~俺の女神~

第7章 ♯Pray(祈り)♯

「奥さんなら、大丈夫ですよ。今は疲れて眠っていますから。かなりの難産だったので、相当、体力を使っています。回復には少し時を要するかもしれませんけれど、まだ若いですからね。輸血もしましたし、当分は安静が必要です」
 二時間後、実里はまたストレッチャーに乗せられ、病室に移った。
 小さな白い個室には、ベッドと簡素な椅子が一つあるきりだ。
 実里はベッドで静かに眠り、傍らにはガラスケースに寝かされた生まれたばかりの赤ん坊が眠っていた。
 悠理は満ち足りた想いで二人の寝顔を眺めた。恐らく、これが家族、親子三人で過ごす最初で最後の時間になるだろう。
 それから一時間余り、彼は大切な二人の顔を心ゆくまで眺めた。心の中に永遠に灼きつけるように、しっかりと刻み込むように。
 これで悔いはない。思いがけず、初めての我が子の誕生にも立ち会うことができた。
 実里の顔色は依然として紙のように白く、血の気はなかったけれど、表情には女の大役を成し遂げた安堵のようなものが浮かんでいる。
 実里の額には汗で髪が貼り付いていた。それが、たった今、彼女が終えたばかりの女の闘いの厳しさの名残を伝えている。
 彼の子どもを生命がけて生んでくれた女だ。
 古今に渡って、原始の昔より女たちは身籠もり、生むという歴史を繰り返してきた。その気の遠くなるほどの長い間、連綿と繰り返されたきた生命の営みは男ではなく女たちによって司られてきたのだ。
 もしかしたら、この世のすべてが男たちにとっては女神なのかもしれない。
 彼はそっと手を伸ばし、実里の額に貼り付いたひとすじの髪の毛を優しい手つきで整えた。
「ありがとう」
 疲れ果てて眠っている実里の乱れた髪を撫で、心からの労いの言葉をかけた。
 病室のドアを閉めた時、廊下を向こうから歩いてくる医師に出逢った。実里の分娩に立ち会い、我が子を取り上げてくれた医師である。
「色々とお世話になりました。ありがとうございました」

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