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My Godness~俺の女神~

第2章 ♯Accident♯

実里はまた大きな息をついた。ワイパーの音が相変わらず耳障りだ。昨夜は結局、あまり眠れず朝を迎えた。更に今日は新規プロジェクトに参加するメンバー全員がほぼ顔を揃え、初めての企画会議を行った。実里はパネルやフィルムなどを駆使して企画の全容を参加者に詳しく説明し、質問者からの鋭く的確な質問に一人で対応しなければならなかった。
 この企画のチーフ、主任は本社の編集部の部長が兼ねるが、副主任は何と企画発案者の実里が任命された。
―入倉君。私はあくまでも飾り物の主任だから、責任者はこの企画を考え出した君自身だということは忘れないでくれたまえよ。
 会議後、部長から直々に申し渡された言葉は、良く取れば実里を頼りにして立てているということでもあり、逆に取れば、この企画が失敗に終われば、実里に全責任が来るという風にも取れる。
 今、実里は、これ以上はないというほど、疲れ切っていた。潤平とのことは、どうしたら良いのか判らない。ここらで別れるべきだと囁く冷静な自分がいる傍ら、今、彼と別れたら、もう二度と自分は誰とも結婚できないのではないかと怖れる自分がいた。
 新規プロジェクトは漸く動き出したばかりで、果たして未熟で経験もない自分に副主任、事実上の責任者だなとどいう重い役が果たせおおせるのか自信もない。
 失敗すれば、夢が潰えるどころか、会社にも居られなくなるだろう。こんなときこそ慰め側にいて支えて欲しい恋人は、自分の仕事のことしか頭になく、新規プロジェクトか結婚かどちらかを選べと迫っている。
 実里は、ふいに眼をしばたたいた。精神的な重圧が高じたのか、あまりに深い疲労のせいか、眼の前が一瞬、霞んだのである。ハンドルから片手を離し、慌てて眼をこすっている中に、視界のブレは治まった。
 ホッとしたその瞬間、数メートル前方に白い影が揺れているのが映じた。刹那、ゾワリと背筋を寒気が走った。しかし、自らを叱咤して落ち着かせる。
 ここら界隈は閑静な住宅地が続いていて、幽霊が出るなどという話はついぞ聞いたことがない。ありったけの自制心をかき集めると、グッとハンドルを握る手に力を込めた。
 と、あろうことか、白い影はふらふらと頼りなげに浮遊するように揺れながら、こっちへ向かって来るではないか。

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