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My Godness~俺の女神~

第2章 ♯Accident♯

 実里は焦った。このままでは、あの白い影にぶつかる。慌てて急ブレーキをかけるも、間に合うはずはなかった。やがてドスンと鈍い音がして車のボンネットに少なからぬ衝撃が加わった。
―人を、轢いて、しまった。
 実里はひたすら茫然としていた。車はとうに停止していたが、彼女はハンドルを異常なほどの力で握りしめたまま、しばらく凍り付いたように動かなかった。やがて永遠にも思える時間が途切れ、実里はハッと我に返った。
 随分と長い時が経ったようだけれど、恐らくものの数秒ほどであったろう。実里は狂ったような勢いで軽自動車のドアを開け、路上に転がり出た。
 やはり―。世にも不幸な予感は的中した。急停車した車の真ん前に一人の女性が倒れていた。白い影のように見えたのは、女性がアイボリーの丈長のワンピースを着ていたからだろう。
 長く茶色い髪が雨に濡れて細い身体に張り付いている。その周りに飛散した血飛沫が見え、雨に濡れたアスファルトを不吉な血の色に染めているのが夜目にも判った。
 女性はうち伏した格好で倒れている。実里は女性の身体に手をかけて揺さぶろうとして、思いとどまった。こんな場合には、下手に動かさない方が良い。
「しっかりして下さい。大丈夫ですか?」
 女性に自分の声が聞こえているかどうか判らなかったけれど、実里は声を限りに呼んだ。
 と、女性がわずかに身体を動かした。
―良かった、生きている!
 神に感謝しながら、実里は女性の顔許に近寄った。女性が顔を少し動かし、持ち上げたからだ。
「大丈夫ですか? 私の声が聞こえますか?」
 実里が問うと、女性はかすかに頷いた―ように見えた。
「お腹に、お腹に」
 か細い声で呟くので、なかなか聞き取れなかったが、やっと何回めかに聞き取れた。
「お腹に―赤ちゃんが」
 実里は愕然として、女性の細すぎる身体を見つめた。そう、確かに彼女は妊娠していた。これ以上は細くならないのではと思えるほど細い肢体の腹部だけがこんもりと大きく突き出ている。明らかに妊婦の体型だ。
 自分は身重の女性を撥ねてしまったのか?
 実里は蒼褪め、倒れ伏した女性を見つめた。

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