My Godness~俺の女神~
第2章 ♯Accident♯
実里は顔を覆っていた両手を放し、腕にはめた時計を眺めた。あの白い服の女性―不幸にも車で撥ねてしまった女が処置室に運ばれてから、もう一時間以上が経つ。
女性が身重だと知った実里の行動は早かった。すぐに携帯で救急車を呼び、救急車が来ると、自分もそれに同乗して搬送先の病院まで付き添った。女性が運ばれたのは駅にほど近い小さな総合病院だった。規模はさして大きくはないが、ここには外科も産科もあるし、何より近いということで選ばれたらしい。
―痛いの、脚が痛いのよ、悠君。
担架に乗せられる間、うわごとのように呟き続けた女性の手を実里はずっと祈るような想いで握りしめていた。
救急車で搬送されている途中で、その呟きは途絶えた。女性が意識を失ったのだ。
救急隊員の呼びかけにも女性は二度と反応することはなく、酸素マスクが装着された。
女性が病院に運び込まれている最中、女の看護士が実里に訊ねてきた。
―失礼ですが、ご家族の方ですか?
―いいえ。私が車であの人を撥ねてしまったんです。
実里の言葉に、看護士は同情とも哀れみともつかない視線を投げてから、去っていった。
その中にちらりと咎めるようなものが混じっていたのは当然だろう。既に警察にも連絡は行き、現場にも来ていたが、取り調べは明日以降になるだろうと聞かされている。
実里と言葉を交わした警察官は逃亡の怖れもないと判断したのだろう。訊ねるだけのことを訊ねると、後は淡々と現場検証を行っていた。
―まだ詳しく状況を調べてみなければ何とも言えませんが、あなたのお話が真実であるとすれば、非はあなたにではなく、むしろ急に路上に飛び出してきた被害者の方にあるようです。ですから、あなたが責任を問われることはないでしょう。
三十過ぎの警察官はかえって実里に同情を抱いている様子であった。
しかし、今更、責任の所在は実里にとっては取るに足りないことだった。仮にこの生命と引き替えに、あの女性の生命が助かるものならば死ぬことも厭わない。自分のために、他の誰かの生命が失われるなんて、考えただけでも耐えられなかった。
リノリウムの白っぽい病院の廊下を白色蛍光灯がぼんやりと照らし出していた。夜の病院ほど無機質で不安を湛えた場所はない。
女性が身重だと知った実里の行動は早かった。すぐに携帯で救急車を呼び、救急車が来ると、自分もそれに同乗して搬送先の病院まで付き添った。女性が運ばれたのは駅にほど近い小さな総合病院だった。規模はさして大きくはないが、ここには外科も産科もあるし、何より近いということで選ばれたらしい。
―痛いの、脚が痛いのよ、悠君。
担架に乗せられる間、うわごとのように呟き続けた女性の手を実里はずっと祈るような想いで握りしめていた。
救急車で搬送されている途中で、その呟きは途絶えた。女性が意識を失ったのだ。
救急隊員の呼びかけにも女性は二度と反応することはなく、酸素マスクが装着された。
女性が病院に運び込まれている最中、女の看護士が実里に訊ねてきた。
―失礼ですが、ご家族の方ですか?
―いいえ。私が車であの人を撥ねてしまったんです。
実里の言葉に、看護士は同情とも哀れみともつかない視線を投げてから、去っていった。
その中にちらりと咎めるようなものが混じっていたのは当然だろう。既に警察にも連絡は行き、現場にも来ていたが、取り調べは明日以降になるだろうと聞かされている。
実里と言葉を交わした警察官は逃亡の怖れもないと判断したのだろう。訊ねるだけのことを訊ねると、後は淡々と現場検証を行っていた。
―まだ詳しく状況を調べてみなければ何とも言えませんが、あなたのお話が真実であるとすれば、非はあなたにではなく、むしろ急に路上に飛び出してきた被害者の方にあるようです。ですから、あなたが責任を問われることはないでしょう。
三十過ぎの警察官はかえって実里に同情を抱いている様子であった。
しかし、今更、責任の所在は実里にとっては取るに足りないことだった。仮にこの生命と引き替えに、あの女性の生命が助かるものならば死ぬことも厭わない。自分のために、他の誰かの生命が失われるなんて、考えただけでも耐えられなかった。
リノリウムの白っぽい病院の廊下を白色蛍光灯がぼんやりと照らし出していた。夜の病院ほど無機質で不安を湛えた場所はない。