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My Godness~俺の女神~

第2章 ♯Accident♯

 だが、何を口にしてみたところで、この男の哀しみが薄れることはない。ましてや、実里はこの女性を殺した張本人と言っても良いのだ。そんな自分が今、何を言ったとしても、かえって男の怒りを煽るだけに違いなかった。
 しかし、実里には謝ることしかできないのだ。
「本当に何と申し上げて良いのか。幾ら謝っても、それで済むことではありませんが、本当に申し訳ありませんでした」
 実里がそっと背後から声をかけると、男が振り向いた。
 地獄から迎えにきた幽鬼のような形相だ。なまじこの男の容貌が整っているだけに、深い絶望を宿した様は余計に凄惨さを際立たせている。
 男がギロリとにらみ付けた。
「あんたが早妃を殺したのか?」
 殺したのか? その一言が胸を鋭くえぐり、実里は息を吸い込んだ。
「悠理、止めろよ」
 付き添いで一緒に来た友人といったところだろうか、先刻、転びそうになった実里に声をかけてくれた男が傍らから男を止める。
「警察の人も言ってただろ。この人だけが悪いんじゃないって。お前のかみさんの方がふらふらと車の前に飛び出していったらしいって」
 友人の科白で、男の腹立ちは最高潮に達したらしい。男は両脇に垂らした拳を握りしめた。
「そんなのは、この女の作り話かもしれない。それに―」
 男は一瞬、何かに耐えるように眼を瞑り、すぐに開いた。
「それに、そんなことは問題ではない。早妃はこの女の運転していた車にぶつかって死んだんだ。つまり、こいつが早妃を殺したっていうことさ」
「馬鹿言うなよ。言ってみれば、この人だって、被害者だろうが。急に人が車の前に飛び出してきて、ビビったと思うぜ」
「貴様、一体、誰の味方だ?」
 凄みのある声で男が言い、実里を睨(ね)めつけた。
「そうさ、お前がすべて悪いんだ。あんたが早妃を殺したんだ!」
 不意を突いて男が実里に掴みかかってきた。

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