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My Godness~俺の女神~

第3章 ♯Vengeance(復讐)♯

 ♯Vengeance(復讐)♯

 誰かが呼んでいる。
 おい、あの声は誰の声だ?
 悠理は儚い期待に胸を震わせたが、やがて、それはすぐに水の泡のように消え去った。
 違う、あれは早妃の声じゃない。男の声だ。
 煩いな、俺を起こすのは止めてくれよ。俺
はもう疲れたんだ。このままずうっと眠り続ければ、早妃や赤ん坊の許に行ける。
 早妃のいないこの世界に何の未練があるっていうんだ?
 なあ、名前を呼んでるばかりじゃなくて、教えてくれよ。早妃がいなくなったこの世界で、俺は何を支えに生きていったら良い?
「―悠理、悠理」
 呼び声が次第に近くなってくる。
 悠理は長い翳を落とす睫を細かく震わせ、ゆっくりと眼を見開いた。
 ゆるゆると面を上げると、親友の柊の気遣わしげな顔が入った。
「大丈夫か?」
 短いひと言の中に、友の無限の優しさと不安を感じ取り、悠理は無理に微笑んで見せる。
「ああ」
 だが、言葉とは裏腹に少しも大丈夫ではないことは自分でも判り切っている。
 現に、それを物語るように、悠理の周囲には既に空になったビール缶が散乱していた。
「これ、全部、お前が飲んだのか?」
 返事をするのも億劫だったので、悠里はぞんざいに顎を引いた。
 柊は呆れたと言わんばかりに肩を竦めた。
「お前なあ、幾ら酒豪っつたって、これだけ飲めば下手すれば急性アル中ものだぜ」
 少なく見積もっても、ビール缶は十本近くはあった。
 悠理はフッと自嘲めいた笑みを刻む。
「それも良いかもな。いや、俺としては是非、そう願いたいよ。いっそのこと、くたばっちまえば早妃や子どもにも逢えるだろう」
 柊はわざとらしい溜息をついた。
「馬鹿か、お前。良い歳をして、何でそれだけ聞き分けのない三歳児のようなことを言うつもりだ? お前が早妃さんの後を追ったから、彼女が歓ぶとでも?」
 そんなことは思いやしないさ。
 早妃はそんな女じゃない。むしろ、ひとり残された俺の心配をあの世とやらでしているだろうよ。

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