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My Godness~俺の女神~

第3章 ♯Vengeance(復讐)♯

「それは所詮、お前にとっては他人事だからさ。早妃は俺の女であって、お前には拘わりのない赤の他人だもんな。だから、そんなに綺麗事ばかりが言えるんだ」
「良い加減にしろよ、悠理」
 柊を拒むかのようにそっぽを向いた悠理に、柊がついに声を荒げた。
「俺が早妃さんを他人だと思っていたって? よくそんなことが言えるもんだな。俺にとっちゃア、悠理は弟分、早妃さんは弟の嫁さんくらいに思ってたんだぜ。あんな良い娘(こ)がこんな風に死んじゃいけない、死んで良いはずがないって想いは俺も同じだ。だがな、悠理、早妃さんの死を乗り越えなきゃ、お前は前には進めないぞ? そうやって、いつまでもうじうじと内に閉じこもっていても、前には進めないだろうが。世の中には乗り越えたくなくても乗り越えなくてはいけないことがあるし、認めたくなくても認めなくちゃいけないことがあるんだ」
「ああ、お前の言うとおりだ。確かに早妃が死んだ時、俺の人生の時間は止まった」
 悠理がうつむくのに、柊はすかさず言った。
「だからこそだ、その止まった時間をもう一度、流れ始めるようにするには早妃さんの死という大きな試練を乗り越えなくてはならない。それくらいは悠理にだって判るだろう」
 短い沈黙が流れた。悠理は唇を噛みしめた。
「俺は始まらないし、始めるつもりもない。柊、一つだけ教えてくれ。早妃の方が道に飛び出したというのなら、あの女は無罪なのか? 人ひとりをひき殺して、のうのうとこれからも陽の当たる道を歩けるのか?」
「目撃者までいるからには、何らかの罪に問われるとは考えにくいだろうな」
 柊が考え深げに言う。悠理は更に唇を強く噛んだ。あまりに強く噛んだために、口の中に鉄錆びた味がひろがる。口の中が切れたのかもしれない。
 俺の、俺の早妃が死んだっていうのに、あの女には何も罪を償う必要がないというのか?
 悠理の心に烈しい憎しみと怒りが燃え上がる。だが、悠理にはもう一つ疑問が残っていた。
「どうして早妃はあんな時間にあそこをうろついていたんだろう」
 疑問がそのまま口に出てしまった。
 それは悠理が最初から感じていたものではあった。事故が起こったのは午後七時を回った、かなり遅い時刻である。当日は雨が降っており、桜の季節とはいえ、流石に夜も七時ともなれば周囲は闇に包まれていた。

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