My Godness~俺の女神~
第3章 ♯Vengeance(復讐)♯
場面は変わり、救急車の中で女性は実里の手を握りしめて、幾度も訴えた。
―悠理君、痛いの、脚が痛いの。
恐らく、あの時、女性は実里を〝悠理君〟だと思い込んでいたのだろう。そして、〝悠理君〟というのが、あの男―病院で実里に憎悪と敵意に満ちたまなざしを向けた人であることは疑いようもない。
あの男性は亡くなった被害者溝口早妃の夫だと聞いた。早妃は亡くなった当時、妊娠七ヶ月半ばで、そのときに生まれていたとしても今の医学では無事成長する可能性は大いにあった。医師団はせめて胎児か母体のどちらかでも救いたいと手を尽くしたようだが、甲斐もなく先に胎児の心拍が停止し、数十分後に母体の方も血圧が急低下し、心拍も途絶えた。
早妃は早産の傾向はあったものの、妊娠経過は順調で、このままいけば予定日より少し早めに元気な赤児が生まれるはずだったという。
つまり、実里が早妃を撥ねなければ、早妃は今もちゃんと生きていて、彼女の胎内に宿った生命も日一日と育っていたはずなのだ。
―許してください。
何度詫びても、到底、気の済むはずもなかった。事故の数日後に行われた警察の事情聴取では、警察はどちらかといえば、実里の方に同情的だった。
―まあねえ。不幸な事故だと思うしかないな。目撃者もちゃんといることだし、入倉さんの方に落ち度はないわけだから。まあ、こんなことはここだけの話だけど、あんたも傍迷惑だったよねえ。夜道でただでさえ視界もきかないのに、いきなり飛び出てこられたら、びっくりするよ。
型どおりの話をしただけで、実里はその日の中には自由になれた。その日も既に聞かされていたが、後日、更に連絡があり、裏も取れたことだし、実里が罪に問われることはないということだった。
実里は溝口早妃の葬儀には参列しなかった。というより、できなかったのだ。過度の精神的ショックで翌朝から高熱を発してベッドに寝たきりで数日間を過ごす羽目になった。確か早妃の葬式は若夫婦の暮らしていたアパートからほど近い会館で行われると聞いていたから、絶対に行くつもりだったのだけれど。
漸く熱も下がり、何とか聴取を受けられるまでに回復したときには、既に葬儀は終わっていた。
―悠理君、痛いの、脚が痛いの。
恐らく、あの時、女性は実里を〝悠理君〟だと思い込んでいたのだろう。そして、〝悠理君〟というのが、あの男―病院で実里に憎悪と敵意に満ちたまなざしを向けた人であることは疑いようもない。
あの男性は亡くなった被害者溝口早妃の夫だと聞いた。早妃は亡くなった当時、妊娠七ヶ月半ばで、そのときに生まれていたとしても今の医学では無事成長する可能性は大いにあった。医師団はせめて胎児か母体のどちらかでも救いたいと手を尽くしたようだが、甲斐もなく先に胎児の心拍が停止し、数十分後に母体の方も血圧が急低下し、心拍も途絶えた。
早妃は早産の傾向はあったものの、妊娠経過は順調で、このままいけば予定日より少し早めに元気な赤児が生まれるはずだったという。
つまり、実里が早妃を撥ねなければ、早妃は今もちゃんと生きていて、彼女の胎内に宿った生命も日一日と育っていたはずなのだ。
―許してください。
何度詫びても、到底、気の済むはずもなかった。事故の数日後に行われた警察の事情聴取では、警察はどちらかといえば、実里の方に同情的だった。
―まあねえ。不幸な事故だと思うしかないな。目撃者もちゃんといることだし、入倉さんの方に落ち度はないわけだから。まあ、こんなことはここだけの話だけど、あんたも傍迷惑だったよねえ。夜道でただでさえ視界もきかないのに、いきなり飛び出てこられたら、びっくりするよ。
型どおりの話をしただけで、実里はその日の中には自由になれた。その日も既に聞かされていたが、後日、更に連絡があり、裏も取れたことだし、実里が罪に問われることはないということだった。
実里は溝口早妃の葬儀には参列しなかった。というより、できなかったのだ。過度の精神的ショックで翌朝から高熱を発してベッドに寝たきりで数日間を過ごす羽目になった。確か早妃の葬式は若夫婦の暮らしていたアパートからほど近い会館で行われると聞いていたから、絶対に行くつもりだったのだけれど。
漸く熱も下がり、何とか聴取を受けられるまでに回復したときには、既に葬儀は終わっていた。