My Godness~俺の女神~
第3章 ♯Vengeance(復讐)♯
実里の懊悩は深かった。たとえ警察で〝不幸な事故〟と言われても、それで納得はできなかった。自分のせいで人ふたりの生命が失われたということをそう容易く忘れて良いものではないし、また忘れられるものではない。
プップー。クラクションの音がけたたましく鳴り響き、実里はハッと顔を上げた。今、実里は会社から出てきたところだ。十階建ての近代的なビルは高層建築の見当たらないこの町では結構目立つ。丁度、会社の前が大きな交差点になっていて、大通りは行き交う車が絶えなかった。
横断歩道の手前でつい物想いに耽ってしまっていたのだが、どうやら信号が青になったようである。実里は意を決して歩き出そうとしたその時。
――ね、死ね。
声が突如として耳奥で響いた。
―死ね、死ね。
実里は忌まわしいものを振り払うように、烈しく首を振った。
―シネ、シネ、オマエナンカ、シンデシマエバイイ。
だが、幻の声は幾ら首を振っても、いっかな消えない。
実里の身体がユラリと傾いだ。ふらふらと何ものかにいざなわれるかのように車道へと近づいてゆく。
と、先刻より更に烈しいクラクションの音が耳をつんざいた。
「危ねえじゃないか、こん畜生、死にてぇのか!」
我に返ると、実里は横断歩道のほぼ中央に立ち尽くしていた。信号は赤だ。青になったと思って歩き出したのだけれど、勘違いしてしまったのだろうか。
実里の前すれすれのきわどいところを大型トラックが噴煙を巻き上げながら猛スピードで走り去ってゆく。どうやら、先刻の罵声はその蒼いトラックの運転手が投げたものらしかった。
実里は茫然として小さくなってゆくトラックを見送った。そして、そこに突っ立っていたのでは余計に危ないことに気づき、慌てて引き返した。
歩道には長方形のフラワーポットが何個か置いてあり、紫陽花が植わっている。まだ青々とした葉を茂らせているだけで、花は見当たらない。
何台かの車がやはり唸りを上げて眼前を通り過ぎた後、やっと信号が変わった。今度こそ青だ。実里は確認してから、横断歩道を渡り始めた
プップー。クラクションの音がけたたましく鳴り響き、実里はハッと顔を上げた。今、実里は会社から出てきたところだ。十階建ての近代的なビルは高層建築の見当たらないこの町では結構目立つ。丁度、会社の前が大きな交差点になっていて、大通りは行き交う車が絶えなかった。
横断歩道の手前でつい物想いに耽ってしまっていたのだが、どうやら信号が青になったようである。実里は意を決して歩き出そうとしたその時。
――ね、死ね。
声が突如として耳奥で響いた。
―死ね、死ね。
実里は忌まわしいものを振り払うように、烈しく首を振った。
―シネ、シネ、オマエナンカ、シンデシマエバイイ。
だが、幻の声は幾ら首を振っても、いっかな消えない。
実里の身体がユラリと傾いだ。ふらふらと何ものかにいざなわれるかのように車道へと近づいてゆく。
と、先刻より更に烈しいクラクションの音が耳をつんざいた。
「危ねえじゃないか、こん畜生、死にてぇのか!」
我に返ると、実里は横断歩道のほぼ中央に立ち尽くしていた。信号は赤だ。青になったと思って歩き出したのだけれど、勘違いしてしまったのだろうか。
実里の前すれすれのきわどいところを大型トラックが噴煙を巻き上げながら猛スピードで走り去ってゆく。どうやら、先刻の罵声はその蒼いトラックの運転手が投げたものらしかった。
実里は茫然として小さくなってゆくトラックを見送った。そして、そこに突っ立っていたのでは余計に危ないことに気づき、慌てて引き返した。
歩道には長方形のフラワーポットが何個か置いてあり、紫陽花が植わっている。まだ青々とした葉を茂らせているだけで、花は見当たらない。
何台かの車がやはり唸りを上げて眼前を通り過ぎた後、やっと信号が変わった。今度こそ青だ。実里は確認してから、横断歩道を渡り始めた