テキストサイズ

My Godness~俺の女神~

第3章 ♯Vengeance(復讐)♯

 他の人も口には出さなくても、腹の中は皆似たようなものだろう。どの人もあの日のことを知っている癖に、敢えて触れようとしない。その癖、態度には微妙にその影響が出ていて、実里はやりきれなかった。
 泣きながら、実里はいつしか眠りに落ちていた。
 哀しい夢を見た。
 どこからか赤ん坊の泣き声が聞こえてきて、実里は赤児を探し回っているのに、見つからない。実里の回りには一面ミルク色の靄が立ちこめていて、実里は際限なく赤児を探し続けなければならなかった。
 夢の中を漂いながら、実里は泣いていた。
―赤ちゃん、私の赤ちゃんはどこなの?
 実里の中に、あの儚く亡くなった女性―溝口早妃の浮かばれない魂が入り込んでしまったのだろうか。
 実里は紛れもない我が子を探すように、涙を零し、いなくなった赤ん坊を探していた。
 
 闇の中からメロディが流れている。
 実里はハッと目覚め、ベッドの上に身を起こした。茫洋としていた意識が次第に鮮明になるにつれて、今日の出来事が次々に脳裏に甦った。
 会社から出てきてほどなく、どこからともなく溝口悠理が現れ、横断歩道を渡りかけていた実里を引きずり戻した。会社前で〝人殺し〟と実里を通行人の前に引き据えて声高に触れ歩いたこと。
 思い出すだけで、恥ずかしさと屈辱に涙が出そうになる。しかし、己れのしたことを思えば、致し方ない報いなのだろう。そう思うしかなかった。
 音楽が鳴っているのは、枕元のナイトテーブルに置いてあった携帯からだ。実里は手を伸ばして携帯を取り上げた。
 二つ折りの携帯を開き、耳を当てる。
―もしもし、入倉さんのお電話で大丈夫ですか?
 若い男の声だ。瞬時に悠理の顔が浮かび、実里は全身に警戒を漲らせた。
―はい、入倉ですけど。
 自らを落ち着かせるように深呼吸してから、続けた。
―どちらさまでしょうか?
―俺、いや、僕は片岡柊路といいます。
―片岡さん?
 聞いたことのない名前である。だが、少しだけ安心もしていた。

ストーリーメニュー

TOPTOPへ