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My Godness~俺の女神~

第3章 ♯Vengeance(復讐)♯

 実里の表情に何か感じるものがあったのだろう、柊路はわずかに身を乗り出してきた。
「心当たりがあれば、何なりと言ってください」
 それでもまだ言うだけの勇気はない。
 柊路が溜息をついた。
「あるんですね? 気になることが」
 実里は口を開きかけ、また黙り込む。
「もしかして、悩んでいるのは悠理のことですか?」
 沈黙が何よりの肯定となる場合もある。柊は、やれやれといった表情で首を振った。
「多分、そんなことになってるんじゃないかと思っていました」
 刹那、実里はバネ仕掛けの人形のように顔を上げた。
「何で判るんですか?」
 柊路が笑っている。
「まあ、あいつ―悠理とはもう長い付き合いですからね。あいつの考えてること、やりそうなことくらいは判ります」
 柊路はいきなり押し黙り、実里を見つめた。
 気まずい沈黙が漂う中、それを破ったのも柊路の方だった。
「こんな言い方は誤解させてしまうかもしれませんが、悠理は今、まともな状態ではありません。奥さんを失って、常識的な判断というものが全くできなくなってる」
「私のせいですね」
 うなだれると、柊路は力強い声で否定した。
「僕は違うと思う。悠理には僕が他人だから、そんな冷たいことを言えるのだと言われましたけどね。確かに、それもあるかもしれない。もし僕が悠理の立場だったら、今のように公平に物事を見られるかどうか? 自信はありません。ただ、今の僕は客観的に考えられる立場にあるので、言わせて貰いますが、あなたは悪くはないでしょう。それは警察の調べでも十分すぎるほど証明されたはずだ」
 柊路はそこで既に運ばれていたコーヒーに口をつけた。とっくに生温くなっているはずだが、砂糖もミルクも入れずに飲んでいる。
「だが、僕は悠理の気持ちもよく判る。あれだけ愛していた奥さんを急に―しかも、赤ん坊ごと失ったんだ。その哀しみややりきれなさを誰かにぶつけることで、自分の気持ちに折り合いをつけようとしているんです」
 柊路はまだ、ひと口ブラックを飲み、今度はカップをソーサーの上に置いた。カチリと小さな音がする。

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