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My Godness~俺の女神~

第4章 ♯Stalker(忍び寄る影)♯

―何しろ小さな町だから、悪い噂はすぐに知れ渡る。だとすればねぇ、入倉君。そういうとかくの風評がある人物を我が社の大切な新規プロジェクトの主要メンバーにしておくわけにはいかんのだよ。殊に今回の企画はやや低迷気味の我が社の社運を立て直すための重要なものだ。会社の威信を賭けてのものといっても良いこの企画に、新聞に載るような事件を起こした者を加えるわけにはなぁ。むろん、私だって、君に何の落ち度もないことは理解しておるつもりだ。しかし、上のお達しで、まあ、そのう、こういう結果になってしまって非常に残念だ。
 要するに、人を撥ねて殺したような人間は、会社の〝顔〟を賭けた重要企画には拘わらせたくない、というのが言い分であった。
―判りました。
 部長がここまで言うからには、恐らくは社長命令に違いない。今更、どう抗議したところで、この命令が覆されることはないだろう。
 実里は小さく頭を下げ、部長室を出た。落胆とやるせなさが同時に胸の内でせめぎ合い、溢れそうになる涙をまたたきで散らすのが精一杯だった。
 後に、実里は企画書の社内選考会で第二位を獲得した若手男子社員が自分の代わりに抜擢されたと聞いた。しかし、かといっても、実里の出した企画案はそのまま採用され、それを考え出した実里本人だけが不名誉な噂によって切り捨てられただけだ。
 潤平にそのことを訴え、やりきれない気持ちを聞いて貰えればと思ったけれど、それはできない相談である。潤平は九月のニューヨーク出向までに実里と入籍したいと望んでいるのだ。そのためにも、今回の新規プロジェクト企画は諦めて欲しいと考えていた。
 今、彼に企画メンバーから外されたことを話しても、かえって、あからさまな安堵の表情を見ることになるだけだろう。
 余計に空しくなるばかりなのは判っていた。
 折角注文したシーフードパスタも一向に食が進まない。実里が沈みがちなのに気づいたのか、潤平がわずかに眉根を寄せた。
「どうしたんだ? 元気ないな」
「そう?」
 実里は気のない様子で応え、無意味にパスタをフォークでかき回した。
テーブルの上のキャンドルライトの焔が揺らめいて、爽やかなパステルブルーのクロスに微妙な影を刻んでいる。
「何かあったのか?」

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