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My Godness~俺の女神~

第4章 ♯Stalker(忍び寄る影)♯

 探るような声に、実里は思わず笑い出したくなった。潤平は実里が心配というよりは、実里を沈ませている問題が自分にまで波及しないかどうかの方が気になるのだ。
 その心情がもろに顔に出ている。
 そんな彼の様子を見ている中に、三日前に逢った柊路の顔が自然に浮かんでいた。
 ホストクラブ勤務だとか、ドラックなど日常的なことで珍しくはないと語っていた。話だけ聞けば、今までの実里なら避けて通り過ぎていたような世界の人だ。
 しかし、実際に柊路と眼前の恋人を比べて、どちらが男として、いや、人間としてより誠実であり、優れているか? そんなことは考えなくても最初から判っている。
 名の知れた大手の広告代理店に勤めるサラリーマンの潤平よりもホストだという柊路の方が数倍も人間が上だ。どんな仕事をしているかよりも、その仕事にどれだけ打ち込んでいるかが大切なのだ。あの日、柊路に言った言葉は、あながち間違ってはいなかったのだと確信が持てた。
「ううん、別に。たいしたことじゃないの。潤平さんには関係ないから、心配しないで」
 潤平さんには関係ないから―、そこだけわざと強めに発音したが、当の男には伝わっていないらしい。潤平はあからさまに安堵の表情を浮かべた。
 この調子では、自分たちはいずれ別れなくてはならないだろうな。実里はこの時、ぼんやりと潤平との別離を意識した。
 八年も付き合ってきて、彼との別離を考えたのは、これが初めてだ。
「そろそろスイーツを注文したら、どうだ? お前、好きだろ。今日はじゃんじゃん食えよな。何でもありだぞ」
 と、いつになく実里の機嫌を取るのは、やはりニューヨーク出向の話があるからだろう。潤平は一日も早く、実里から〝Yes〟の返事を引き出したいのだ。
 おかしなものだ。これまでなら、
―男に食事代を払わせないなんて、俺を馬鹿にしてるのか?
 と言う癖に
―食事の他にケーキなんか食べるのか? お前は贅沢だな。俺は贅沢はさせない主義だから、食事代は出すけど、その他は自分で払えよ。
 などと平気で相反することを言っていたのに、今夜はまるで別人だ。
 あまりの変わり様を皮肉げに実里が見ていることも知らず、潤平は機嫌が良い。

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