My Godness~俺の女神~
第4章 ♯Stalker(忍び寄る影)♯
穏やかな物腰の潤平を見た人は誰でも皆、その性格まで同じかと勘違いするのだが、現実には外見と正反対である。むしろ、癇性で短気といった方が良かった。
「潤平さん、もう、今日は帰りましょう」
実里がしきりに彼の背広を引っ張っても、潤平は憮然として、その手を払った。
「お前は黙ってろ。こんな失礼な態度を取られて、黙っていられるはずがない」
と、潤平が小さく頷いた。
「なるほど、そういうことか」
一人で納得顔になり、先刻よりは穏やかな口調で悠理に話しかけた。
「いや、失敬した。確か君の名字はどこかで聞いたはずだとは思ったんだが、すぐに思い出せなくて申し訳ない」
言いながら、仕立ての良いビジネススーツの内ポケットをまさぐり、長財布を取り出した。その中からおもむろに一万円札を数枚引き抜き、悠理に差し出した。
「これで足りるかな?」
「潤平さんっ。止めて、そんなことしないで。かえって失礼よ」
実里が慌てて止めても、潤平は聞く耳を持たなかった。
悠理の切れ長の眼(まなこ)に剣呑な光が瞬いた。
「それは、どういう意味だ?」
悠理は今にも牙を剥いて喉笛に喰らいつきそうな狼に見える。だが、潤平は悠理のそんな微妙な変化には気づかず、滔々と述べ立てた。
「何って、金だよ。これが欲しいから、わざわざ恥知らずにもこんなところまでやって来たんだろう?」
「―」
悠理が押し黙り、テーブルの上に置いてあったワイングラスを取り上げた。スと立ち上がり、ワイングラスを潤平の頭上で傾ける。深い紫のロゼワインは見事に潤平の全身にひろがり、上等のスーツには至るところ、滲みができた。
先刻からの興味深いやりとりに、店内にいた客たちの殆どが注目している。こういった場合、他人の喧嘩は大きれば大きいほど面白いものだ。実里は穴があれば、すぐにでも入って隠れたい気分だった。
「き、貴様ッ。何をするっ」
潤平の顔が怒気に染まったかと思うと、今度は白くなった。
「あんた、ひと一人の生命をたったの数万と引き替えにしようっていうの?」
潤平を馬鹿にするように、悠理の眉がつり上がる。
「潤平さん、もう、今日は帰りましょう」
実里がしきりに彼の背広を引っ張っても、潤平は憮然として、その手を払った。
「お前は黙ってろ。こんな失礼な態度を取られて、黙っていられるはずがない」
と、潤平が小さく頷いた。
「なるほど、そういうことか」
一人で納得顔になり、先刻よりは穏やかな口調で悠理に話しかけた。
「いや、失敬した。確か君の名字はどこかで聞いたはずだとは思ったんだが、すぐに思い出せなくて申し訳ない」
言いながら、仕立ての良いビジネススーツの内ポケットをまさぐり、長財布を取り出した。その中からおもむろに一万円札を数枚引き抜き、悠理に差し出した。
「これで足りるかな?」
「潤平さんっ。止めて、そんなことしないで。かえって失礼よ」
実里が慌てて止めても、潤平は聞く耳を持たなかった。
悠理の切れ長の眼(まなこ)に剣呑な光が瞬いた。
「それは、どういう意味だ?」
悠理は今にも牙を剥いて喉笛に喰らいつきそうな狼に見える。だが、潤平は悠理のそんな微妙な変化には気づかず、滔々と述べ立てた。
「何って、金だよ。これが欲しいから、わざわざ恥知らずにもこんなところまでやって来たんだろう?」
「―」
悠理が押し黙り、テーブルの上に置いてあったワイングラスを取り上げた。スと立ち上がり、ワイングラスを潤平の頭上で傾ける。深い紫のロゼワインは見事に潤平の全身にひろがり、上等のスーツには至るところ、滲みができた。
先刻からの興味深いやりとりに、店内にいた客たちの殆どが注目している。こういった場合、他人の喧嘩は大きれば大きいほど面白いものだ。実里は穴があれば、すぐにでも入って隠れたい気分だった。
「き、貴様ッ。何をするっ」
潤平の顔が怒気に染まったかと思うと、今度は白くなった。
「あんた、ひと一人の生命をたったの数万と引き替えにしようっていうの?」
潤平を馬鹿にするように、悠理の眉がつり上がる。