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My Godness~俺の女神~

第4章 ♯Stalker(忍び寄る影)♯

「僕はそんなことは言ってない。だが、君。よく考えてみたまえ。この金を持って、さっさっと立ち去った方が君にとってはよほど賢明ではないかと思うがね。この際だから、はっきり断っておこう。僕のフィアンセは君の奥さんを殺してはいない。大体、お宅の奥さんの方がふらふらと路上に飛び出してきたという話じゃないか。妊婦がでかい腹をして夜の七過ぎに外をうろついていたというのも信じられない話だが、僕のフィアンセはそのことで多大な迷惑を蒙ったんだぞ? そのせいで、社会的な名誉を大いに傷つけられた。実里の方には全く非がないということは警察に行けば、すぐに証明して貰えるだろう。もし、君がこれ以上、実里にしつこくつきまとうようなら、僕にも考えがある。逆に警察に通報して、君を逮捕して貰うことだってできるんだ」
 潤平にしては酷く常識的なことを言ったものだ。実里は、そんなことをぼんやりと考えた。確かに、潤平の言うことは筋が通っている。しかし、今の場合、悠理の前で口にするにふさわしい科白とは思えなかった。これでは、かえって相手の感情を逆撫でして、火に油を注ぐようなものである。
「お前なア、人間一人を轢き殺しておいて、その言い草はないだろう? 少しでも死んだ人間に対しての罪の意識とか、ないのかよ」
 その科白は潤平ではなく、むしろ実里の方に向けられているかのようでもある。
 実里が身体を強ばらせている側で、潤平が代わりに応えた。
「だから、先刻から言っている。実里に非はないのだから、謝る必要がどこにあるというんだ! 本当にしつこいな。良い加減にしたまえ。今、この場で警察に突き出されたいのなら別だがね」
「潤平さん、お願い、もう止めて」
 見かねて縋るようなまなざしを送ると、潤平は鼻を鳴らした。
「折角の夜が台無しだ。悪いが、これで失礼するよ」
 ワインの赤い滴をしたたらせながら、潤平はぞんざいに顎をしゃくった。
「行くぞ」
 実里はさっさと先を行く潤平の後を慌てて追う。
 後には悠理だけが残された。
 ダーン。悠理が腹立ち紛れに座っていた椅子を蹴り倒した。

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