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My Godness~俺の女神~

第4章 ♯Stalker(忍び寄る影)♯

「溝口さんの奥さんが亡くなってまだ、たったの十日余りしか経っていないわ。なのに、今、潤平さんとそんな関係になれるはずない」
「別に構わないだろう。俺たちには関係ない話だ」
「どうして? どうして関係ないなんて言うの? あの男(ひと)の言うことも満更、間違ってはいないのよ。あの男の奥さんは私の運転していた車に当たって死んだわ。確かに私は法的には責任を問われない立場かもしれないけど、私はそれでも自分のせいだと思ってる。私が死ぬことで、あの男の気が済むのなら、それだって構わないと思ってるくらい。なのに、潤平さんは、そんな大切なことを何でもないとか、関係ないのひと言で片付けるっていうの?」
 潤平が鼻で嗤った。
「馬鹿だな」
「馬鹿ですって?」
「ああ、そのとおりだ。ちゃんと警察が念入りに調査した上で、お前には罪がないと言われたんだ。それを自分で騒ぎ立てて事を荒立てて、何の得がある? これ以上、くだらないことを考えるのは止めて、事故については一切、考えるな。もうすべて忘れるんだ」
 忘れろですって?
 実里は潤平の最後の言葉を繰り返し反芻した。それは図らずも自分自身への問いかけともなった。 
 忘れる? そんなことができるはずがない。潤平にも言ったように、あの男―溝口悠理の発言は満更間違ってはいないのだ。あの男の妻の死について、百パーセント、実里に責任はないにせよ、少なくとも幾ばくかはある。それを知らないふりをして過ごすなんて、実里にはできない。できるはずもない。
 実里が沈黙を守っていることが了解の証と理解したのか、潤平が車のエンジンをかけた。そのまま発進させようとするのに、実里は首を振った。
「ごめんなさい。私、やっぱり、無理だわ」
 潤平はハンドルを握ったままの格好で、前方を向いている。
「その返事が何を意味するか判ってるのか?」
 実里は頷いた。
「ええ、ちゃんと理解してる。今夜、潤平さんのものにならなかったら、もう結婚は考えられないってことでしょう」
「そこまで判っていながら、俺と行かないのか?」

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