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My Godness~俺の女神~

第4章 ♯Stalker(忍び寄る影)♯

「そうね。三月の終わりにプロポーズされてから、私なりに色々と考えてみたの。私たちって、今し方、潤平さんも言ってたけど、確かに変だったわよね。ううん、私が言いたいのは身体の関係があるとかないとか、そういうことではなくて、心のありよう」
「心のありよう? 今夜の実里は随分と難しいことを言うんだな」 
 皮肉も多少は混じっていたけれど、それは潤平の本音に近い気がした。
「潤平さんも私も、八年も一緒にいながら、その実、少しも相手の本当の姿を見ていなかったんじゃないのかと思ってる」
「本当の―相手の姿、か」
「私、潤平さんと逢うときは、いつもあなた好みの可愛い清楚なお嬢さん風っていうスタイルにしてたけど、本当は違うのよ。普段の私はカジュアルで気取らない服が好き。行くお店だって、そう。Tシャツにジーンズはいて、焼鳥屋なんか行くようなデートがしたかった。でも、潤平さんは違うでしょ。今夜のように少しオシャレなレストランでスーツにワンピースっていうシチュエーションが好きなのよね」
「なら、実里はこの八年間、ずっと俺好みの女を演じてきただけだと?」
 潤平の声は固かった。
「まあ、そう言えば、そういうことよね」
「俺は実里も愉しんでると思ってたんだぞ。お前を歓ばせたくて高い食事代払って、高級な店にも連れていった」
「それは感謝してる」
 実里は少し考え、言葉を選びながら言った。
「さっきだって、凄く嬉しかった。潤平さんが溝口さんに向かって、はっきり物を言って庇ってくれたから。ああ、守られてるんだって思って、幸せだなと思ったの」
「それなら何故! 今になって別れを匂わせるような話をする?」
「プロポーズされてから、私たちがあまりに違いすぎることに気づいたの。求めるものも、考え方も何もかも違うのに、結婚して上手くやってゆけるとは思わない」
「結局、プロポーズしたことが別離の原因になったとは、皮肉なものだな」
「ごめんなさい。最後の最後にこんなことを言って。でも、良かった。今までずっと、あなたの顔色を窺ってばかりで言いたいことの半分も言えなかったけど、最後に言えたから」
 潤平からしばらく応(いら)えはなかった。

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