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My Godness~俺の女神~

第4章 ♯Stalker(忍び寄る影)♯

「どうやら、俺はお前が作り上げた俺好みの女っていう幻に惚れてたみたいだな。だがな、実里。たとえ幻であろうが、お前はお前、生身の人間であり女だ。俺は何も可愛いだけの人形を好きになったわけじゃない。だから、もう一度だけ考えてみてくれ。俺と仕事のどちらを選ぶか。俺はもう本当のお前とやらを知ったわけだから、今更、気取る必要もない。その上で俺は今、改めて求婚してる。その意味をよく考えて、また近い中に返事を聞かせて欲しい」
「―ありがとう」
「愛の告白に、礼を言われるのはあまり嬉しくないな」
「じゃあ、ここで降りるわね」
「そろそろ十時だ。家まで送ってくよ」
 実里は微笑んで首を振った。
「大丈夫よ。まだ雨も降りそうにないし、歩いて帰るわ」
「そうか。なら、気をつけて帰れよ。また電話する」
 実里は頷いて手を振った。
 白いセダンがウィンカーを点滅させながら、走り去ってゆく。実里は車が角を曲がって見えなくなるまで、潤平を見送った。
 潤平は自分が思っている以上に、頼り甲斐のある男なのかもしれない。
 実里は少しだけ弾んだ気持ちで歩き始めた。ここから家までは急げば十分くらいで着く。できるだけ早足で行こう。
 しばらく歩いた頃、実里は後悔していた。やはり、意地を張らずに送って貰えば良かった。帰り道には、実はあの道―実里が溝口早妃を撥ねた場所を通らなければならないのだ。
 普段は少し余裕を持たせて家や会社を出て、あの道は避けるようにしていたのだが、今日はフレンチレストランから歩いて帰ることになったため、回り道ができなくなってしまった。レストランは事故現場から直進方向にあり、脇道はない。
 いつもはダイエットのために、片道二十分の道程を歩いて通勤していたのに、何故、あの運命の日に限って、車を使ったのか。
 それも今更ながらに悔やまれてならないことだ。一つには朝、出かけるときに雨が降りそうだったこと。駅前のスーパーでバイトをしている母がその日だけ父の車ではなく実里の車に乗せていって欲しいと頼んだのが理由だった。

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