My Godness~俺の女神~
第4章 ♯Stalker(忍び寄る影)♯
いつもは七時半に家を出る父は当日に限り、早出だからと三十分早く家を出た。それで、八時前に実里が母を積んで車で家を出たのである。
別に早妃の亡霊が出るとか、オカルトじみたことを考えて怖れているわけではない。実里が怖れているのは、あの夜の出来事を思い出すからだった。
雨に濡れて道端に倒れ伏していた早妃の華奢な身体、膨らんでいた腹。
アスファルトを染めていた血の色。
―赤ちゃん、赤ちゃんがお腹に。
か細い呟きや、搬送途中でしきりに痛みを訴えていた弱々しい声。そんなものが一挙に押し寄せてくるのだ。
あれらを思い出す度に、自分が一人の女性の生命を奪ったという重すぎる事実に打ちひしがれねばならなかった。
ここまで来れば、もう引き返すことはできない。実里はいっそう早足になった。
いよいよあの場所に近づいたときのことだ。少し離れた背後から、ひそやかな足音がついてくるのに気づいた。
実里は恐る恐る後ろを振り返った。しかし、狭いアスファルト道路が伸びているだけで、辺りは一面の闇に包まれている。
とうとう小走りに走ると、足音も速くなる。「―」
実里はもう躊躇はしなかった。明らかに何者かが自分の後をつけているのだ。こんな月もない夜更けに人気のない住宅街を散歩する酔狂な人は少ないだろう。変質者かもしれない。
実里が全速力で走り出すと、相手も最早、気配を殺すのは止めたようだ。はっきりと闇夜をひた走る足音が不気味に夜の静けさの底に響いた。
途中でふっと足音が止んだ。
ああ、諦めたんだわ。
実里は荒い息を吐きながら、立ち止まった。
その時。突如として背後から羽交い締めにされ、実里は悲鳴を上げた。だが、声が洩れる間際に素早く分厚い手のひらで口許を覆われた。
なに、一体、どうしたの?
実里は烈しいパニックに陥った。
渾身の力で暴れたが、哀しいかな、非力な女の力では、どうしようもない。あまり想像したくはないことだが、どうも相手は屈強な男のようである。
別に早妃の亡霊が出るとか、オカルトじみたことを考えて怖れているわけではない。実里が怖れているのは、あの夜の出来事を思い出すからだった。
雨に濡れて道端に倒れ伏していた早妃の華奢な身体、膨らんでいた腹。
アスファルトを染めていた血の色。
―赤ちゃん、赤ちゃんがお腹に。
か細い呟きや、搬送途中でしきりに痛みを訴えていた弱々しい声。そんなものが一挙に押し寄せてくるのだ。
あれらを思い出す度に、自分が一人の女性の生命を奪ったという重すぎる事実に打ちひしがれねばならなかった。
ここまで来れば、もう引き返すことはできない。実里はいっそう早足になった。
いよいよあの場所に近づいたときのことだ。少し離れた背後から、ひそやかな足音がついてくるのに気づいた。
実里は恐る恐る後ろを振り返った。しかし、狭いアスファルト道路が伸びているだけで、辺りは一面の闇に包まれている。
とうとう小走りに走ると、足音も速くなる。「―」
実里はもう躊躇はしなかった。明らかに何者かが自分の後をつけているのだ。こんな月もない夜更けに人気のない住宅街を散歩する酔狂な人は少ないだろう。変質者かもしれない。
実里が全速力で走り出すと、相手も最早、気配を殺すのは止めたようだ。はっきりと闇夜をひた走る足音が不気味に夜の静けさの底に響いた。
途中でふっと足音が止んだ。
ああ、諦めたんだわ。
実里は荒い息を吐きながら、立ち止まった。
その時。突如として背後から羽交い締めにされ、実里は悲鳴を上げた。だが、声が洩れる間際に素早く分厚い手のひらで口許を覆われた。
なに、一体、どうしたの?
実里は烈しいパニックに陥った。
渾身の力で暴れたが、哀しいかな、非力な女の力では、どうしようもない。あまり想像したくはないことだが、どうも相手は屈強な男のようである。