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My Godness~俺の女神~

第5章 ♯Detection(発覚)♯

 〝鹿田さん〟というのは、編集部にいる四十三歳のベテラン社員である。若い女の子たちからは〝鹿田のお局〟といわれ畏怖される対象だ。いまだに独身で、駅前の豪華なワンルームマンションで悠々自適の生活を送っているらしい。
 美人といえばいえなくもないが、度の強い銀縁めがねをかけ、長い髪をシニヨンにしていつも黒づくめの格好をしているので、余計に近寄りがたい印象を与える。
「別に鹿田さんのことを言ったわけじゃないわ。人聞きの悪いことを言わないで」
 とにかく仕事に関しては厳しく、新入社員の中で鹿田さんの洗礼を受けなかった者はいないとまで言われるほどだ。去年の春には、入社したての男子社員が鹿田さんに手厳しく注意され、皆の前で大泣きしたというエピソードがある。
「まあ、でも、確かにああなりたくはないわよね」
 ひかるの言葉にはしみじみとした本音が感じられた。
「でもね。知ってる? 私、大変なことを聞いたのよ」
 ぼんやりと考え事に耽っていた実里の耳許で突如として大きな声が聞こえた。
「実里、聞・い・て・る・の」
 実里は瞬間的にピクリと身を震わせた。
「な、何よ。耳の側でいきなり大声出さないで」
 ひかるが頬を膨らませた。
「だって、実里ったら何を話しかけても、まるで上の空なんだもの」
「ごめん、ごめん。で、何の話だったけ?」
「鹿田さんよ、鹿田さん」
「ああ、そうね。そうだったわね」
 ひかるが更に顔を近づけた。
「鹿田さんが営業部長の愛人だって噂、聞いたことがある?」
 声を低めて問われ、実里は首を振る。
「まさか。そんな話、聞いたこともないけど」
 ひかるは更に小声になった。
「それが、どうやら、そのまさからしいのよ。私も金橋君から聞いたんだけどね」
 ひかるには一年近く付き合っている彼氏がいる。金橋大悟といって、営業部二十六歳、一つ下である。爽やかなアスリート系というのか、ルックスも性格もそこそこ良くて若手女子社員たちからはモテる方だ。

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