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My Godness~俺の女神~

第1章 Prologue~序章~

 親父が死んでから、俺は今の仕事についた。昔気質の生真面目な親父が生きていれば、ホストになんぞ間違ってもならなかったろう。
 親父と母親は熱烈な恋愛結婚だと聞いている。名家の一人娘だったお嬢さまと家庭教師の恋だなんて、今時、昼メロでも流行らないが、俺の両親はその下手くそなメロドラを地でいった。
 だが、我が儘に育った母親はろくな稼ぎもない父親に直に愛想を尽かした。二人が出逢ったのは母親が高校一年、親父が大学三年のときだ。母親が高校卒業するのを待って、二人は手に手を取って遠くの町に行き入籍したが、妄想的恋愛はそこで終わった。
 母親は貧乏を嫌悪し、事あるごとに父を不甲斐ないと責め立てた。そしてついに、俺が五歳のときに突然、男と逃げた。母親がいなくなった日、父は俺を抱きしめて男泣きに号泣した。
―ごめんな、父ちゃんが甲斐性ないばかりに、ごめんな。
 悪いのは何も親父じゃない、勝手に男を作って出ていった母親だったのだが、幼い俺はそれを言葉にして伝えるすべはなかった。
 不器用で、生涯、社会の片隅で細々と生きていたような人だったけれど、俺は少なくとも親父を好きだったし、尊敬もしていた。
 親父の人生は再婚もせずに男手一つで俺を育て、四十三で死ぬまで働きどおしで働いて、何も良いことなんてなかった。親父が死んでから、俺はすぐに高校を止めた。元々、勉強なんて嫌いだったし、学校に行くよりは働きたいと思っていたんだ。
 それでも真面目に勉強し学校にも通っていたのは、すべて親父のためだった。親父は俺に教師か公務員になって地道に生きて欲しいと願っていたから、その望みを叶えるためにやっていた。
 でも、その親父ももう死んだ。母親は十七年前に出ていったきり、どこにいるのか、生きているのかも判らない。俺を辛うじてつなぎ止めていた細い糸がプツリと音を立てて切れたようだった。
 最初はガソリンスタンドでバイトしていたが、もっと収入が良い仕事を探している中にスナックのウエイターの求人が見つかった。夜の仕事に入ったのは、それがきっかけだ。
 俺の母親は貧乏だった親父を棄てた。それなら、もっと一杯稼いで金持ちになってやれれば、どこかで生きているかもしれないあの女を見返してやれる。そう思った。

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