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My Godness~俺の女神~

第5章 ♯Detection(発覚)♯

 実里が何も言わないのを勘違いしたのか、看護士が側から言い添えた。
「ここも十年前まではお産を取り扱っていたんですけど、年々、赤ちゃんの数も減ってくるでしょう。設備を導入しても、肝心の妊婦さんが減る一方なので、仕方なく止めたんですよ」
 しかし、実里は最後まで聞いてはいなかった。溢れてくる涙を零さないようにするのが精一杯だったのだ。
 待合室に戻ると、堪えていた涙が一挙に溢れ出してきた。
 何故、どうしてという想いが脳裏を駆け巡る。
 これが天罰なのだろうか。
 溝口早妃が亡くなったことへの天が実里に下した罰―。
「入倉さん、入倉実里さん」
 さして待つこともなく呼ばれ、一週間分の薬を渡された。
「妊娠は病気ではありませんから、あまり深刻に受け止める必要はありませんよ。このお薬を飲んで、無理に食べようとはせずに、食べたいときに食べたい物を食べてね。あと一ヶ月もすればも悪阻も治まりますからね」
 先刻の看護士が優しく言い、受け付けで薬を渡してくれた。その時、入り口で囁き交わす声が飛び込んできた。
「あれって、受付の入倉さんじゃない?」
「妊娠って言わなかった?」
「私、聞いたわよ、悪阻がどうとか」
実里は恐る恐る振り返った。視線の先に、見憶えのある顔が二つ、好奇心を剥き出しにしてこちらを凝視している。
 二人ともに庶務課の若い女の子たちだ。確か、実里よりは四年ほど遅れての入社ではなかったか。
「こんにちはー」
「入倉先輩、どうされたんですかぁ?」
 若い子の語尾を引き延ばす特有の話し方がこれほど疳に障ったことはなかった。
 つい今し方、妊娠だとか悪阻だとか言っていたのに、しれっと訊ねてくるところも嫌らしい。
「ちょっとお腹の調子が悪くて。あなたたちは?」 
 彼女たちはささっと意味ありげな目配せを交わし、丸顔の可愛らしい子の方が言った。
「私たち、花粉症なんですぅ。もう涙とか鼻水だとか、嫌になるくらい止まらなくて」

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