My Godness~俺の女神~
第5章 ♯Detection(発覚)♯
それもそうだろう。つきあい始めて八年間、実里が初めて見せた、ささやかな〝反抗〟だったのだから。
いつも従順で、表立って潤平の主張に逆らったことなど一度もなかったのだ。
少し力を込めすぎたかもしれない。潤平の頬を打った手が痺れる。実里は踵を返すと、そのままエレベーターに向かった。
背後で潤平が何か叫んでいるようだったが、無視する。やって来たエレベーターに乗り込み、一階のボタンを押した。
実里を乗せた箱は途中で二度、止まった。乗り込んでくる人がいたからだ。一度目は若い夫婦者らしく、小さな子を連れていた。一人は男の子で三歳くらい、一人は性別までは判らないけれど、ベビーカーに乗った生後半年くらいの赤ちゃんだった。
これから出かける予定でもあるのだろうか。実里は睦まじげに語り合う夫婦が連れている赤ん坊を覗き込んだ。つぶらな瞳、小さな手と足。少し力を込めれば、折れてしまいそうな大切な壊れ物。
不思議な気持ちだ。今、自分の胎内にはやはり赤ちゃんが宿っていて、今この瞬間もめざましい勢いで育っている。
あと一年もしない中に、その小さな小さな生命はこんな立派な人の形をした赤ちゃんになる。
実里は思った。もし仮にこれが心から愛する男の子どもなら、たとえ未婚の母という十字架を背負うことになったとしても、実里は躊躇わず生むだろう。しかし、お腹の子の誕生を望む人は誰もいない。この子の母親である私自身さえも。
その瞬間、赤ちゃんがにこっと実里に笑いかけた。何と愛らしい笑顔! どれだけ腹を立てている人でも思わず顔が緩んでしまうような顔ではないか。
なのに、実里はふいに涙が滲んできて、慌て手のひらでぬぐわなければならなかった。
初めての赤ちゃんを歓迎できず、しかも生む選択ができないなんて。
二度目に乗ってきたのは六十代くらいの老夫婦だった。杖をついた老妻をやはり銀髪の品の良いご主人が労る姿には心温まるものがあった。
どちらも今の自分とは対極にある幸せそのものの夫婦の姿である。実里の心は余計に沈んだ。
いよいよエレベーターが一階に着き、実里は最後に降りた。
いつも従順で、表立って潤平の主張に逆らったことなど一度もなかったのだ。
少し力を込めすぎたかもしれない。潤平の頬を打った手が痺れる。実里は踵を返すと、そのままエレベーターに向かった。
背後で潤平が何か叫んでいるようだったが、無視する。やって来たエレベーターに乗り込み、一階のボタンを押した。
実里を乗せた箱は途中で二度、止まった。乗り込んでくる人がいたからだ。一度目は若い夫婦者らしく、小さな子を連れていた。一人は男の子で三歳くらい、一人は性別までは判らないけれど、ベビーカーに乗った生後半年くらいの赤ちゃんだった。
これから出かける予定でもあるのだろうか。実里は睦まじげに語り合う夫婦が連れている赤ん坊を覗き込んだ。つぶらな瞳、小さな手と足。少し力を込めれば、折れてしまいそうな大切な壊れ物。
不思議な気持ちだ。今、自分の胎内にはやはり赤ちゃんが宿っていて、今この瞬間もめざましい勢いで育っている。
あと一年もしない中に、その小さな小さな生命はこんな立派な人の形をした赤ちゃんになる。
実里は思った。もし仮にこれが心から愛する男の子どもなら、たとえ未婚の母という十字架を背負うことになったとしても、実里は躊躇わず生むだろう。しかし、お腹の子の誕生を望む人は誰もいない。この子の母親である私自身さえも。
その瞬間、赤ちゃんがにこっと実里に笑いかけた。何と愛らしい笑顔! どれだけ腹を立てている人でも思わず顔が緩んでしまうような顔ではないか。
なのに、実里はふいに涙が滲んできて、慌て手のひらでぬぐわなければならなかった。
初めての赤ちゃんを歓迎できず、しかも生む選択ができないなんて。
二度目に乗ってきたのは六十代くらいの老夫婦だった。杖をついた老妻をやはり銀髪の品の良いご主人が労る姿には心温まるものがあった。
どちらも今の自分とは対極にある幸せそのものの夫婦の姿である。実里の心は余計に沈んだ。
いよいよエレベーターが一階に着き、実里は最後に降りた。