My Godness~俺の女神~
第5章 ♯Detection(発覚)♯
どんな花を咲かせるのか、誰も知らない。
何故なら、この子の人生はたった今、実里の胎内で始まったばかりなのだから。
生もうと思った。たとえ誰が望まなくても良い、この自分がこの子を一生かけて愛し、守ってゆけば良いのだと強く強く思った。
そしていつか、この子がどんな花を咲かせるのか、実里も側で見守りながら見極めたい。
ここでひっそりと息づいている生命をむざと摘み取ることなど、誰もできはしないのだ。この子の生命はこの子のものであり、この子の人生もまたこの子だけのものなのだ。たとえ母親といえども、新しい生命を身勝手に葬り去ることを天は許しはしないだろう。
この時、実里の中で初めて母の自覚が生まれた。
道端の紫陽花が夜陰の中でほのかに浮かび上がっている。実里は雨に濡れるのも厭わずに、いつまでも真っ青な花を見つめていた。
その二日後の昼下がり。
実里は突然、人事部の部長から呼び出しを受けた。
部長室の扉をノックすると、すぐに応答があった。
「入りたまえ」
「失礼します」
実里は慇懃にお辞儀をして部長の前に立つ。五十過ぎの人事部長は始終、渋面をしていることで社内でも有名である。あだ名は〝ムシさん〟。苦虫を噛みつぶしたような表情がトレードマークだからだ。
ゆったりとしたスペースのある部長室は一面を大きなガラス張りの窓が占めており、重厚なマホガニーのデスクがその窓を背景に配置されている。
ムシさんはその立派すぎるデスクと座り心地の良さそうな椅子には、いささか不似合いだ。部長と聞かなければ、平の冴えないサラリーマンに見える。
今日はその渋面が更に苦い薬でも飲んだように顰められていた。
「今日、ここに呼ばれた原因は君ももう判っているだろうね」
こんな時、あっさりと自分の非を認めては駄目だ。呼び出しを受けた理由が何にせよ、会社側をはやそれだけで有利に立たせることになる。それは七年間のOL生活でちゃんと心得ている。
「お言葉を返すようですが、私には何のことか判りかねます」
何故なら、この子の人生はたった今、実里の胎内で始まったばかりなのだから。
生もうと思った。たとえ誰が望まなくても良い、この自分がこの子を一生かけて愛し、守ってゆけば良いのだと強く強く思った。
そしていつか、この子がどんな花を咲かせるのか、実里も側で見守りながら見極めたい。
ここでひっそりと息づいている生命をむざと摘み取ることなど、誰もできはしないのだ。この子の生命はこの子のものであり、この子の人生もまたこの子だけのものなのだ。たとえ母親といえども、新しい生命を身勝手に葬り去ることを天は許しはしないだろう。
この時、実里の中で初めて母の自覚が生まれた。
道端の紫陽花が夜陰の中でほのかに浮かび上がっている。実里は雨に濡れるのも厭わずに、いつまでも真っ青な花を見つめていた。
その二日後の昼下がり。
実里は突然、人事部の部長から呼び出しを受けた。
部長室の扉をノックすると、すぐに応答があった。
「入りたまえ」
「失礼します」
実里は慇懃にお辞儀をして部長の前に立つ。五十過ぎの人事部長は始終、渋面をしていることで社内でも有名である。あだ名は〝ムシさん〟。苦虫を噛みつぶしたような表情がトレードマークだからだ。
ゆったりとしたスペースのある部長室は一面を大きなガラス張りの窓が占めており、重厚なマホガニーのデスクがその窓を背景に配置されている。
ムシさんはその立派すぎるデスクと座り心地の良さそうな椅子には、いささか不似合いだ。部長と聞かなければ、平の冴えないサラリーマンに見える。
今日はその渋面が更に苦い薬でも飲んだように顰められていた。
「今日、ここに呼ばれた原因は君ももう判っているだろうね」
こんな時、あっさりと自分の非を認めては駄目だ。呼び出しを受けた理由が何にせよ、会社側をはやそれだけで有利に立たせることになる。それは七年間のOL生活でちゃんと心得ている。
「お言葉を返すようですが、私には何のことか判りかねます」