My Godness~俺の女神~
第5章 ♯Detection(発覚)♯
ウォッホン。ムシさんは白々しい咳払いをした。
「一昨日の夕方のことになる。人事部の方に
匿名で電話があった。その内容はというとだね、まあ、どうも受付係の一人が妊娠しているらしいという通報だったんだよ」
妊娠。
そのひと言がムシさんの口から飛び出てきて、流石に実里もただ事ではないと感じた。
刹那、二日前に小さな病院で偶然出くわした若い女子社員の顔が浮かんだ。丸顔の可愛らしい感じの子と一方は、大きなマスクをしていたので容貌は定かではない。確か庶務課の子たちのはずだ。
女の噂話ほど無害のように思えて、実は有害なものはない。
「その受付係の名前はお訊きになったのですか?」
シラを切り通すのが賢明だとは判っていたが、どうしても訊かずにはおれなかった。
「ホウ、君には心当たりがあるのかね」
ムシさんの小さな眼が光った。
この期に及んで、実里は、しまったと思った。まんまと相手の術中に填ったのだと知っても、もう取り返しがつかない。
明らかな誘導尋問である。
ムシさんは小さな溜息をつくと、デスクの上の両手を軽く組み合わせた。
「入倉君。人事部でも君については、ここのところよく名前が出ることが多くてね」
「部長―」
言いかけた実里をムシさんが手を上げて制した。
「まあ、聞きたまえ。僕は君のことをかえって気の毒だと思っているんだよ。四月頭に起こった事故については、本当に万が悪いとしか言えなかったからね。あれはたまたま起きたものだ。亡くなった女性を轢いたのは君ではなくて、僕だったかもしれない。あの事件の後、君の進退についてとやかく言う管理職もいないでもなかったが、僕は社内の人事を一手に扱っているという立場から、君の辞職にいては一切あり得ないと押し通した」
実里は眼を瞠った。まさかムシさんが自分に対して同情的な立場を取り、社内で庇ってくれていたとは知らなかった。
「新規プロジェクトについては庇い切れなかったことを申し訳ないと思っている。あれは社長自らが言い出したことで、下っ端の僕にはどうしようもないことだった」
「部長、色々とご配慮頂きまして、ありがとうございます」
実里は目頭が熱くなり、慌てて頭を下げた。
「一昨日の夕方のことになる。人事部の方に
匿名で電話があった。その内容はというとだね、まあ、どうも受付係の一人が妊娠しているらしいという通報だったんだよ」
妊娠。
そのひと言がムシさんの口から飛び出てきて、流石に実里もただ事ではないと感じた。
刹那、二日前に小さな病院で偶然出くわした若い女子社員の顔が浮かんだ。丸顔の可愛らしい感じの子と一方は、大きなマスクをしていたので容貌は定かではない。確か庶務課の子たちのはずだ。
女の噂話ほど無害のように思えて、実は有害なものはない。
「その受付係の名前はお訊きになったのですか?」
シラを切り通すのが賢明だとは判っていたが、どうしても訊かずにはおれなかった。
「ホウ、君には心当たりがあるのかね」
ムシさんの小さな眼が光った。
この期に及んで、実里は、しまったと思った。まんまと相手の術中に填ったのだと知っても、もう取り返しがつかない。
明らかな誘導尋問である。
ムシさんは小さな溜息をつくと、デスクの上の両手を軽く組み合わせた。
「入倉君。人事部でも君については、ここのところよく名前が出ることが多くてね」
「部長―」
言いかけた実里をムシさんが手を上げて制した。
「まあ、聞きたまえ。僕は君のことをかえって気の毒だと思っているんだよ。四月頭に起こった事故については、本当に万が悪いとしか言えなかったからね。あれはたまたま起きたものだ。亡くなった女性を轢いたのは君ではなくて、僕だったかもしれない。あの事件の後、君の進退についてとやかく言う管理職もいないでもなかったが、僕は社内の人事を一手に扱っているという立場から、君の辞職にいては一切あり得ないと押し通した」
実里は眼を瞠った。まさかムシさんが自分に対して同情的な立場を取り、社内で庇ってくれていたとは知らなかった。
「新規プロジェクトについては庇い切れなかったことを申し訳ないと思っている。あれは社長自らが言い出したことで、下っ端の僕にはどうしようもないことだった」
「部長、色々とご配慮頂きまして、ありがとうございます」
実里は目頭が熱くなり、慌てて頭を下げた。