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My Godness~俺の女神~

第5章 ♯Detection(発覚)♯

 ムシさんは頷いた。
「そこで、一昨日の通報についてだが、入倉君は今後、どうするつもりかな? 僕としては是非、君の意見を聞きたい。その応えいかんによって、僕が君の力になれるかどうかも判るだろう」
「部長、それは一体、どういう―」
 ムシさんが細い眼を更に細めた。
「単刀直入に言おう。何も女子社員の妊娠は珍しいことではない。今日日、結婚しても勤務を続ける女子社員は増える一方だからね。しかし、君がまだ未婚なのは社内でも周知の事実だ。まあ、言いにくいことではあるが、四月の事件がなければ、今回のことも寛容に対処しても良かった。だが、あの事故に続いて、また問題になりそうなことが起こったとなれば、人事部としても黙ってはいられない。だからだね。入倉君、もし君がそのお腹の子どもの父親とすぐにでも籍を入れるとか結婚するというのなら、こちらとしても問題はないんだよ」
 ムシさんは一旦言葉を切り、言いにくそうに続けた。
「または、これも言いづらいが、君が中絶を考えている場合も、事は穏便に処理できる」
 実里は小さく息を吸い込んだ。
「それでは、もし私が生むという決断を下した場合は、辞職せざるを得ないということですか?」
 応えは聞かずとも判っていた。
「気の毒だが、そういうことになるだろうね。何しろ、うちの社長は頭が固いから。殊にそういう道義的な事柄に関しては煩いんだ。今時、シングルマザーなんて珍しくもないと僕なんかは思うけどねえ」
 ムシさんはかなり薄くなった頭髪に手をやった。
「いやあ、身内の恥をさらすようなものだけど、うちの娘も今月初めに結婚したんだよ。それができちゃった結婚だった。まあ、参った。いきなり見知らぬ男と現れて、子どもができたから結婚させろだとか何とか言われて、僕は一瞬、血圧が上がって死ぬんじゃないかと思うほどのショックだ。家内はもう泣き崩れるし。一人娘だからと甘やかしていたのが災いしたらしい。だから、入倉君のことも他人事とは思えなくてね。僕としては、君がどういう選択をしようが、このまま会社にいられるようにしてあげたいと思う。しかし、やはり、現実としては、そうは問屋が卸さないだろうね」

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