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My Godness~俺の女神~

第5章 ♯Detection(発覚)♯

 あの時、彼は言ったはずだ。悠理は普通の状態ではない。気をつけろと。
 実里がもっと彼の警告を真摯に受け止めていたなら、あの夜のレイプは避けられたかもしれない。もう一度、あの優しい眼をした穏やかな青年に逢ってみたいと思わないでもなかったけれど、悠理の友達だというただそれだけの関係の彼に、実里の方から連絡するのも躊躇われた。
 実里は、ひかるに人事部長とのやりとりをほぼ全部話した。
「そんな―。それはあんまりというものじゃない。新規プロジェクトのことだってそうだけど、たったそれだけのことで、実里を切り捨てるなんて割に合わないわ。絶対におかしいわよ」
 話を聞いたひかるはまるで我が事のように憤慨した。
「仕方ないわよ。ムシさんだって、できるだけのことをしてくれたんだし」
 かえって渦中の本人の方がひかるを宥めている。
 と、ひかるが急に憂い顔になった。
「ねえ、一つだけ訊いても良い?」
「なあに?」
「実里のお腹の赤ちゃんの父親は誰なの?」
 実里は硬直した。
 ひかるが慌てて取りなすように言った。
「話したくないのなら、無理に訊こうとは思わないわ。でもね、今だから話すけれど、一昨日、実里が給湯室で吐きそうになった時、私は実里が妊娠しているんじゃないかと思ったの。私には姉がいるでしょ。その姉が結婚して初めて妊娠したときに悪阻が物凄くて、実家に一時戻ってきて、静養したくらいなのよ。実里の様子がそのときの姉とそっくりだったから、もしかしたらと思ったの」
「それで、生理のことを訊いたのね。私ってば、女失格だわ。ひかるが私に訊ねてきたときに、何でそんなことをいきなり訊ねるんだろう、幾ら親しくても嫌だなって思っちゃったの」
 実里が正直に打ち明けると、ひかるは笑った。
「それが実里の実里らしいところだもんね」
「なに、それ。褒められてるような気がしないんだけど」
 二人は顔を見合わせて笑った。
 この優しくて明るい親友とも、これで離れ離れになる。会社を辞めることは確かに実里にとって一つの大きな節目になるに違いなかった。

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