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My Godness~俺の女神~

第5章 ♯Detection(発覚)♯

「せいぜいお手柔らかにね」
 実里の冗談とも本気ともつかぬ言葉に、ひかるは笑った。
「あなた、眼が笑ってないわよ?」
 ひかるの指摘に、〝そう?〟と、しれっと笑顔で応えた。
「それで、会社止辞めて、次の仕事の心当たりはあるの?」
「全然。しばらくは家にいるわ。といっても、そうそう、のんびりともしていられないけどね。お腹が大きくなってきたら、できる仕事も限られてるでしょうし。今の中にバイトでもして、しっかりと稼いでおかないと」
 冗談めかして言ったのに、かえって、ひかるは涙ぐんで黙り込んでしまった。
 確かに、ひかるの言うとおりだと思う。自分で言うのもおかしいけれど、実里は相当なお人好しだ。自分を陵辱したあの男―溝口悠理ですら、今はもう憎しみをあまり感じなくなっている。
 もちろん今も顔だって見たくないほど大嫌いな男に違いはないが、事件直後のように殺してやりたいと思うくらいの憎しみは薄れていた。
 あの男を憎んでも意味がない。それは恐らく、あの事故の起きた日、実里が早妃を轢いてしまったことにも言えるだろう。誰を恨んでも憎んでも、何も始まらないし、生まれない。
 実里はもう事故のことで自分を責めるのは止めた。ただ自分が生命を奪ってしまったひとりの女性の存在だけは永遠に心にとどめ、罪は背負っていこうと思っている。
 そうやって自らの罪と向き合うことでしか、実里には償うすべはない。せめて忘れないことが、あの女への贖罪なのだ。
 早妃のことは憶えておいて、あの男―悠理の存在はさっさと記憶から消してしまおうと思う。あの忌まわしい汚辱の夜も。
 自分にはこの子さえいてくれれば良い。
 私だけの子、可愛い私の赤ちゃん。
 この子には最初から父親はいない。私をレイプした男があなたのお父さんよだなんて、絶対に言えるはずがない。この秘密は私がこの生命尽きて墓場に行くまで、ずっと秘めて、あの世にまで持っていく。
 実里は無意識の中にお腹を押さえていた。

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