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My Godness~俺の女神~

第6章 ♯Conflict(葛藤)♯

 その場は実里の仕事があるので、後でまた逢うことにして柊路は帰った。
 二時間後、実里の勤務時間が終わり、二人は実里の自宅までの道程を肩を並べて歩いた。
「ああ、持つよ」
 実里が両手に野菜や肉を詰め込んだビニール袋を下げているのを見、柊路が奪い取るように荷物を取った。
 その点、パートは店内の商品を何割引かで買えるので、助かる。これからはできるだけ節約しなければならない。何しろ出産したら、しばらくは身動きが取れない。そのときに備えて、貯金は少しでも多い方が良かった。
 むろん、両親と同居しているのだから、援助は受けられる。しかし、名前も明かせない男の子どもを身籠もり、今また生もうとしている親不孝に加えて、これ以上、親に心配や負担はかけたくなかった。
 現に、実里はこうして数日に一度は自費で夕飯の食材を購入して帰る。父も母も余計な心配はするなとしきりに言うのだが、実里の心がそれに甘えられないのだ。
「実里ちゃん、結婚したんだ?」
 いきなり問われ、実里は言葉に窮した。
 小さく息を吸い込み、笑顔を作る。
「いいえ、結婚はしてません」
 え、というように柊路が眼を見開いた。
「でも―」
 柊路の視線がすっかり大きくなった腹部に注がれている。
 実里はうつむいた。
「ごめんなさい。ちょっと訳ありで、一人で子どもを生むことになって」
「別に実里ちゃんが謝ることはないけど、俺には君がそんな風な女の子には見えなかったけどなぁ」
 柊路は首を振り、思い直したように笑顔になった。
「でも、まあ、安心したよ。あれから、どうしてるのかなと心配はしてたんだ。だけど、君みたいなごく普通の女の子は俺のような男とはあんまり関わり合いにはなりたくないだろうと思って」
 どうも実里の方から連絡を取らなかったことを気にしているらしい。それで、やはり、彼からの連絡が途絶えたのだ。柊路はそれを彼の職業のせいだと思い込んでいるようだ。
「片岡さん、勘違いしてます」
 柊路の形の良い眉が少しだけはねた。
「どういうこと?」

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