光の輪の中の天使~My Godness番外編~
第2章 流れた歳月
―教えて、あの時、私の側にずっとついていてくれたのは、あなたなの?
そう訊こうとして伸ばしかけた指先は、しかし、空しく宙をかいた。
「実里」
駆け出そうとした実里の肩に触れた温もりに、実里は我に返る。
振り向けば、夫の柊路が微笑んでいた。
「話が済んだなら、そろそろ帰ろうか」
実里は悟った。柊路はすべてを承知の上で、親子三人で短いひとときを過ごさせるために、わざとこの場からいなくなったのだ、と。
柊路もまた、この運命の再会が神様の特別な配慮で実現したことを、そして、そんな運の良い偶然はこの先、二度と起こるはずもないことを心得ている。だからこそ、何も言わずに黙って実里と悠理を残して去ったのだ。
恐らく、柊路は知っているに違いない。実里が理乃を生んだ当日、側に付き添って出産に立ち会ったのがそも誰であるかを―。
しかし、今になって訊ねたところで何になるだろう? ここまで優しい夫をかえって傷つけ哀しませるだけだ。
「風が冷たくなってきた。身体に障るといけない」
優しい夫の声に何故か涙が滲む。
「パパ~」
理乃が大好きなパパに飛びつく。
「理乃、今日は走らないんだな?」
柊路に言われ、理乃は小さな顔に生真面目な表情を浮かべた。
「だって、あのおじちゃんに言ったもん。もう、転ばないって。パパとママの言うことをちゃんときくって約束もしたのよ。そうしたら、また、一緒に遊んでくれるって。ねえ、パパ、あのおじちゃんにまた逢えるかな」
何も知らない理乃のひと言が実里の胸を鋭く抉った。理乃は一生、実の父が誰であるかを知らずに過ごすのだ。
そうして、真実は明らかになる前に時の流れの中に沈んでゆく。
だが、いつのときでも真実を陽の下に照らし出すのが皆の幸せにつながるとは限らない。人は時に知らずに済むことが幸せな場合もあるのだ。
このから先、優しい嘘が理乃を守ってくれるように。そして、いつか優しい嘘は真実そのものとなり、理乃は幼い日に束の間、逢っただけの実の父を忘れ、柊路は名実ともに理乃の父親になるだろう。
そう訊こうとして伸ばしかけた指先は、しかし、空しく宙をかいた。
「実里」
駆け出そうとした実里の肩に触れた温もりに、実里は我に返る。
振り向けば、夫の柊路が微笑んでいた。
「話が済んだなら、そろそろ帰ろうか」
実里は悟った。柊路はすべてを承知の上で、親子三人で短いひとときを過ごさせるために、わざとこの場からいなくなったのだ、と。
柊路もまた、この運命の再会が神様の特別な配慮で実現したことを、そして、そんな運の良い偶然はこの先、二度と起こるはずもないことを心得ている。だからこそ、何も言わずに黙って実里と悠理を残して去ったのだ。
恐らく、柊路は知っているに違いない。実里が理乃を生んだ当日、側に付き添って出産に立ち会ったのがそも誰であるかを―。
しかし、今になって訊ねたところで何になるだろう? ここまで優しい夫をかえって傷つけ哀しませるだけだ。
「風が冷たくなってきた。身体に障るといけない」
優しい夫の声に何故か涙が滲む。
「パパ~」
理乃が大好きなパパに飛びつく。
「理乃、今日は走らないんだな?」
柊路に言われ、理乃は小さな顔に生真面目な表情を浮かべた。
「だって、あのおじちゃんに言ったもん。もう、転ばないって。パパとママの言うことをちゃんときくって約束もしたのよ。そうしたら、また、一緒に遊んでくれるって。ねえ、パパ、あのおじちゃんにまた逢えるかな」
何も知らない理乃のひと言が実里の胸を鋭く抉った。理乃は一生、実の父が誰であるかを知らずに過ごすのだ。
そうして、真実は明らかになる前に時の流れの中に沈んでゆく。
だが、いつのときでも真実を陽の下に照らし出すのが皆の幸せにつながるとは限らない。人は時に知らずに済むことが幸せな場合もあるのだ。
このから先、優しい嘘が理乃を守ってくれるように。そして、いつか優しい嘘は真実そのものとなり、理乃は幼い日に束の間、逢っただけの実の父を忘れ、柊路は名実ともに理乃の父親になるだろう。