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光の輪の中の天使~My Godness番外編~

第2章 流れた歳月

「本当? じゃあ、それも約束だよ」
 もう一度、げんまんと、理乃の可愛らしい声とともに父と娘の指はしっかりと絡められた。
「じゃあ、そろそろ俺、行くわ」
 悠理は理乃をそっと降ろした。
 何か、何か言わなければと実里が息を吸い込んだ時、悠理が微笑んだ。
「あんたの旦那が待ちかねてる」
 実里が振り返れば、いつしか後方に柊路がひっそりと佇んでいた。
 悠理は実里におどけて片眼を瞑って見せた。 
「あんたも今度は予定日まで踏ん張って、子どもを腹に入れとけよ」
 いかにも最後まで悠理らしい台詞だった。
 悠理はもう一度しゃがみ込んで、理乃と目線を合わせた。
「お父さんとお母さんの言うことをよくきいて、良い子でいろよ。もう、転ぶんじゃないぞ」
 うんと、小さな頭がこっくりする。
 悠理はその頭をひと撫でし、柊路に小さく頭を下げた。
「これからもよろしく頼む」
 すれ違いざまに殆ど柊路にしか聞き取れないような声で交わした言葉は、実里の耳に入ることはなかった。
―あんたも今度は予定日まで踏ん張って、子どもを腹に入れとけよ。
 何故か、悠理の別れ際の言葉が気になってならず、大切なことを彼に聞き逃していたような気がしてならない。
 その時、唐突にある考えが閃いた。
 もしや、実里が早妃の墓参の最中に産気づいたあの日、実里を病院まで連れていき出産に立ち会ったのは―。
 実里は弾かれたように顔を上げた。
 今、問わなければ、恐らく、二度と訊ねる機会はないに違いない。
 実里は今こそ、漸く気づいたのだ。
 四年前のあの日、ひと晩がかりで産みの苦しみに喘いだ実里に付き添い、理乃の誕生までを見守っていた若い男性。病院関係者が幾ら訊ねても最後まで身元も明かさず何も語らず去っていったという人はもしかしたら、悠理なのではないか。
 今や、その疑念は確信となりつつあった。悠理があのときの恩人と同一人物でなければ、何故、実里が早産であったことや出産のときの様子をあんなにも知っているのか?

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