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Memory of Night 番外編

第2章 Episode of YOI


 静まり返った室内に、愛美が立てた物音だけがやけに大きく響く。


「きりは……」


 愛美は顔を上げ、意を決したように叫んだ。


「わたしにも……さっきの子と同じことして!」


 自分でも驚くくらいに大きな声が出た。

 大胆なことを言っている自覚はあったけれど、ここで怯んでいる場合ではない。

 きっとこれが最後のチャンスなのだ。

 今を逃したら彼の側には行けない。

 憧れだって、恋心だって、宵への気持ちがなんであろうとそんなものはどうでもよかった。

 愛美は身を乗り出すようにして宵の瞳を見据え、さらにたたみかける。


「してくれたら、さ……さっきのこと誰にも言わないからっ」


 愛美の脳裏に、先ほど廊下を駆けていった髪の長い女生徒の顔が浮かぶ。

 隣の教室で何が行われていたのか、詳しくはわからない。けれども二人の格好から、性的な何かであることはわかった。

 軽いやりとり。金銭の受け渡し。

 きっと二人は恋仲じゃない。

 それなのに、あの女生徒だけが彼に触れられるのはずるい。

 ――ずるい。


「脅す気?」


 だがふと頭上で響いたのは、酷く冷たい声だった。

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