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Memory of Night 番外編

第2章 Episode of YOI


 愛美ははっとして、掴んでいた宵の服を離した。

 知らず知らずのうちに伏せてしまっていた顔を再び持ち上げる。

 宵の背は愛美よりも二十センチほど高く、自然と見下ろされる格好になった。

 宵の表情からは、明確な感情が読み取れない。

 表情が乏しいからこそ、余計に怖かった。

 脅すつもりなんかない。

 ただもう少し彼と一緒にいたかっただけだ。

 愛美の中の一時の衝動はすぐに冷め、激しい後悔だけが残った。


(わたしなんてこと言っちゃったんだろう……っ)


 これでは脅しと捉えられ、軽蔑されてしまうかもしれない。彼に嫌われるのが何より怖かった。

 愛美は瞳を伏せ、両手をぎゅっと握りしめた。

 その状態のまま動けずにいると、今度は頭上で小さなため息が聞こえた。


「いーよ。ならあっちの部屋行くぞ」

「え?」


 思いがけず、肯定の言葉。

 宵は理科準備室を指差した。

 愛美はぽかんとその指先を見つめる。


「生物室よりあっちの方が人来ねーし、見つかりにくいだろ? 万が一誰か来ても隠れられるし」


 宵の言葉に、確かに、と思う。

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