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淫らな死体~お嬢さま春泉の秘密~④

第7章 天上の楽園

 天上の楽園

 秀龍は盛大な溜息をつくと、緩くかぶりを振り、ゴロリと床に仰向けになった。
 今日は珍しく非番の日で、一日中、屋敷にいられる貴重な休みだ。この機会に普段は腰を据えて読むことのできない書物をじっくりと読もうと愉しみにしていたのだが、どうも気が散って集中できない。
 我ながら、情けない有り様だ。
 秀龍はまた、我知らず溜息を吐き出す。見ようによっては、悩ましい吐息とも受け取れるだろう。
 あの堅物で知られる皇秀龍が悩ましい吐息を洩らすだなんて、天と地が真っ逆さまになったとしても、あり得ないことだ!
 当の秀龍自身でさえ愕いている始末だ。
 笑いたい奴は笑えば良い。
 秀龍は半ば自棄(やけ)っぱちな気分になり、自虐めいた笑みを浮かべた。
 秀龍は自分が陰でどう呼ばれているかを知っている。〝皇秀龍には、あちらの趣味があるそうだ〟としたり顔で囁かれているのも。
 秀龍が王宮に参内した時、途中でさる官僚とすれ違ったことがあった。顔は見憶えがあるのだが、名前は知らない。確か工曹に所属する中級官吏だと記憶していたが、秀龍は自分よりもゆうに十歳は年上と見える相手に、丁重に頭を下げて通り過ぎた。
 その時、秀龍は義禁府の官服を着ていたから、自分の立場も相手はすぐに判ったはずだ。当然、向こうも挨拶を返してくるものと思っていたのに、その男は秀龍に意味ありげな視線を寄越し、じろじろと品定めするように不躾に眺める。
 滅多に腹を立てない秀龍もこれにはいささかムッとして、そのまま通り過ぎたのだが―、その男とすれ違ってほどなく、後方から陰にこもった笑い声が響き、思わず振り返った。
 見ると、先刻の男とどこの部署に属する男かは判らないが、その知り合いらしい同年輩の男が秀龍を窺い見ては何やらひそひそと話している。共に蒼い官服を着ているところを見ると、同じような中級官吏だろう。
 その時、二人の話の合間に〝男色〟とか〝あれほどの男ぶりでありながら、女には眼もくれない〟とかいう言葉が辛うじて聞き取れた。そう、秀龍に関して流れている噂―、〝あちらの趣味がある〟というのは、ズバリ、男色趣味を示しているのだ!!

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