淫らな死体~お嬢さま春泉の秘密~④
第7章 天上の楽園
全く馬鹿げているというのは秀龍だけの主張で、自分についてはそういった実に不愉快極まりない噂がさも真実のように語られているのは紛れもない現実である。
名誉のために断っておくが、秀龍には男を愛する趣味などない。根っからの男なのだから、むくつけき同類より、やわらかな女の膚の方が恋しいのは当然だろう。秀龍に言わせれば、これまでの二十四年の生涯で、ただ〝これだ!〟と思える女にめぐり逢わなかっただけのことだ。
世の大抵の男どもは、愛情や心などなくても女は抱けると豪語しているようだが、少なくとも秀龍自身は女人に対しては、気持ちが先になければ、身体に触れることはできないし、しない。
本当に心から好意を寄せる女でなければ、抱く気にもならないなどと言えば、やはり、おかしい、普通ではないと思われてしまうのも判っている。
柳家の娘との縁組が本決まりになった時、秀龍は特に異存はなかった。両班の結婚とは、親が決め、その言いつけに従って行われるものだと判っていたからだ。
これまで持ち込まれた数々の縁談を断ったのは、彼自身の意思はもちろんあったけれど、元々、両親がさほど気に入らなかったというのが最大の原因だろう。
父が気に入れば、母の方が難色を示し、裏腹に母が意欲的であれば、父が駄目だと言う。その上に、当の秀龍自身が乗り気ではないのだから、端から順調に進むはずがない。
それが、今回ばかりは、どういうわけか、すんなりと纏まった。むろん、母は
―柳千福が殺されたのは、あの男の数々の悪行の報いだと世間では囁かれております。そのような天下の大悪党の娘を何故、今更、当家に迎えねばならないのですか!?
と、断固反対していた。
が、父の方が今度ばかりは強硬に押し進めたのである。不思議なことに、秀龍もまた、千福在世中は気が向かなかった柳家との縁組に、今度は心が動いた。
妻となる娘があの悪名高き柳千福の娘だというのも、さして気にしなかった。
父才偉から、千福亡き後、残された母と娘が助け合いながら慎ましく暮らしていると聞かされていたし、生活の糧を得るために自ら刺繍をして、それを売っていると知ったときには、今時、珍しい健気な孝行娘だとも感心した。
名誉のために断っておくが、秀龍には男を愛する趣味などない。根っからの男なのだから、むくつけき同類より、やわらかな女の膚の方が恋しいのは当然だろう。秀龍に言わせれば、これまでの二十四年の生涯で、ただ〝これだ!〟と思える女にめぐり逢わなかっただけのことだ。
世の大抵の男どもは、愛情や心などなくても女は抱けると豪語しているようだが、少なくとも秀龍自身は女人に対しては、気持ちが先になければ、身体に触れることはできないし、しない。
本当に心から好意を寄せる女でなければ、抱く気にもならないなどと言えば、やはり、おかしい、普通ではないと思われてしまうのも判っている。
柳家の娘との縁組が本決まりになった時、秀龍は特に異存はなかった。両班の結婚とは、親が決め、その言いつけに従って行われるものだと判っていたからだ。
これまで持ち込まれた数々の縁談を断ったのは、彼自身の意思はもちろんあったけれど、元々、両親がさほど気に入らなかったというのが最大の原因だろう。
父が気に入れば、母の方が難色を示し、裏腹に母が意欲的であれば、父が駄目だと言う。その上に、当の秀龍自身が乗り気ではないのだから、端から順調に進むはずがない。
それが、今回ばかりは、どういうわけか、すんなりと纏まった。むろん、母は
―柳千福が殺されたのは、あの男の数々の悪行の報いだと世間では囁かれております。そのような天下の大悪党の娘を何故、今更、当家に迎えねばならないのですか!?
と、断固反対していた。
が、父の方が今度ばかりは強硬に押し進めたのである。不思議なことに、秀龍もまた、千福在世中は気が向かなかった柳家との縁組に、今度は心が動いた。
妻となる娘があの悪名高き柳千福の娘だというのも、さして気にしなかった。
父才偉から、千福亡き後、残された母と娘が助け合いながら慎ましく暮らしていると聞かされていたし、生活の糧を得るために自ら刺繍をして、それを売っていると知ったときには、今時、珍しい健気な孝行娘だとも感心した。