淫らな死体~お嬢さま春泉の秘密~④
第1章 柳家の娘
「おっと、あんたが何をどう勘違いしたのか知れないが、俺は何もお嬢さんの容色について言った憶えはないぞ?」
「えっ」
春泉は意外な言葉に息を呑んだ。思わず言葉を失ってしまう。
「俺が言いたかったのは、幾ら外見が綺麗でも、心が醜けりゃア、折角の美人もあたら宝の持ち腐れってことが言いたかっただけだよ」
「人をからかうのは良い加減にしなさい。私のどこか綺麗だというの? 色は真っ黒だし、眼は細くて狐のようにつり上がっているし、口だって大きいわ」
言っている中に、自分でも哀しくなって、涙が溢れて止まらなくなった。
「そんなことはないさ」
そのときだけ、男は別人のように真摯な表情になった。それは、春泉がはっと息を呑むほどの変わり様だった。
「あんたが思ってるほど、お嬢さん、あんたは醜くはないさ。俺はむしろ、初めて見た時、綺麗な娘だと思ったぜ。ただ、あんたは自分の容姿に引け目を感じている。そのこと自体がかえって、あんたの雰囲気を暗く沈んで見せてるんだ。もっと自信を持って良いんじゃないのか? 膚の色なんて、もっと化粧を濃くすれば断然違ってくるし、あんたが気にしてる眼だって、言うほど細くはねえ。唇なんて、かえって、艶めいていて男の好き心をそそる―色っぽい口許だぞ」
「艶めいていて―色っぽい? 男の―好き心をそそるですって?」
春泉は考えてもみなかった科白に、もう眼を白黒させるしかない。
「そんなことは一度だって、言われたことがないもの、私」
呟いた春泉に、男はまたニッと笑った。
今度の笑みは先刻までと違い、人を見下したようではなく、むしろ親しみやすさを感じさせる人懐っこいものだ。
「それは、あんたの周囲にちゃんと物の良さを見極められる人がいなかった、ただそれだけのことだろ。大方、あんたの両親は赤が青に、白が黒にしか見えないんじゃないのかい。少なくとも、俺はあんたを綺麗だし、可愛いと思う。ほら、その紅を塗ってなくても、つやつやと光って色っぽい唇がどんな味がするか、俺が一度吸って、試してみてやろうか―」
男は最後まで言えなかった。
バッチーン。今度は前回以上に大きな音がして、猛烈な一撃を今度は左頬に喰らったからである!!
「えっ」
春泉は意外な言葉に息を呑んだ。思わず言葉を失ってしまう。
「俺が言いたかったのは、幾ら外見が綺麗でも、心が醜けりゃア、折角の美人もあたら宝の持ち腐れってことが言いたかっただけだよ」
「人をからかうのは良い加減にしなさい。私のどこか綺麗だというの? 色は真っ黒だし、眼は細くて狐のようにつり上がっているし、口だって大きいわ」
言っている中に、自分でも哀しくなって、涙が溢れて止まらなくなった。
「そんなことはないさ」
そのときだけ、男は別人のように真摯な表情になった。それは、春泉がはっと息を呑むほどの変わり様だった。
「あんたが思ってるほど、お嬢さん、あんたは醜くはないさ。俺はむしろ、初めて見た時、綺麗な娘だと思ったぜ。ただ、あんたは自分の容姿に引け目を感じている。そのこと自体がかえって、あんたの雰囲気を暗く沈んで見せてるんだ。もっと自信を持って良いんじゃないのか? 膚の色なんて、もっと化粧を濃くすれば断然違ってくるし、あんたが気にしてる眼だって、言うほど細くはねえ。唇なんて、かえって、艶めいていて男の好き心をそそる―色っぽい口許だぞ」
「艶めいていて―色っぽい? 男の―好き心をそそるですって?」
春泉は考えてもみなかった科白に、もう眼を白黒させるしかない。
「そんなことは一度だって、言われたことがないもの、私」
呟いた春泉に、男はまたニッと笑った。
今度の笑みは先刻までと違い、人を見下したようではなく、むしろ親しみやすさを感じさせる人懐っこいものだ。
「それは、あんたの周囲にちゃんと物の良さを見極められる人がいなかった、ただそれだけのことだろ。大方、あんたの両親は赤が青に、白が黒にしか見えないんじゃないのかい。少なくとも、俺はあんたを綺麗だし、可愛いと思う。ほら、その紅を塗ってなくても、つやつやと光って色っぽい唇がどんな味がするか、俺が一度吸って、試してみてやろうか―」
男は最後まで言えなかった。
バッチーン。今度は前回以上に大きな音がして、猛烈な一撃を今度は左頬に喰らったからである!!