淫らな死体~お嬢さま春泉の秘密~④
第7章 天上の楽園
「オクタンの若い頃の話を聞かせて貰って、愉しかったわ。だって、初めてだったもの」
既に寝床に入ってかなりの刻を経ていたが、オクタンが眠っていないことは明らかだった。オクタンはいつも、春泉が幼い頃から、幼い主人が眠りに落ちるまで、けして自分も眠ろうとはしなかったからだ。
「そうですか? 私はお嬢さま以外に、こんな話はしたことがありませんですよ。もう、この年になって、恋だの何のって、恥ずかしくって。あの世にいる亭主も私と同じ心もちで、今頃はお喋り女がまた余計な話をしやがって、なんて怒ってるかもしれません。今夜辺り、夢に化けて出てきそうで、気が気じゃありません」
そこで、オクタンはふっと笑った。
「でもね、お嬢さま、たまには夢の中でも良いから、亭主にもう一度だけ逢ってみたいと思うことがあるんです。―夫婦って、そんなもんですよ。惚れた何だって大騒ぎして一緒になって、その挙げ句、色々と喧嘩ばかりして。でも、片割れがいなくなっちまったら、気の抜けた鞠と同じ。やっぱり、あいつが傍にいないと駄目だなって、自然に思うようになります」
オクタンは、そう言ってから、布団に身を起こした。傍らを見やると、既に春泉は軽い寝息を立てている。
「大丈夫ですよ。あの若旦那さまとお嬢さまなら、きっとお似合いのご夫婦になれます。もう少しだけ、あの堪(こら)え性のない坊ちゃんを気長に見守ってみて差し上げて下さいませね」
オクタンは春泉の上掛けを直し、自分も布団に戻って眼を瞑った。
既に寝床に入ってかなりの刻を経ていたが、オクタンが眠っていないことは明らかだった。オクタンはいつも、春泉が幼い頃から、幼い主人が眠りに落ちるまで、けして自分も眠ろうとはしなかったからだ。
「そうですか? 私はお嬢さま以外に、こんな話はしたことがありませんですよ。もう、この年になって、恋だの何のって、恥ずかしくって。あの世にいる亭主も私と同じ心もちで、今頃はお喋り女がまた余計な話をしやがって、なんて怒ってるかもしれません。今夜辺り、夢に化けて出てきそうで、気が気じゃありません」
そこで、オクタンはふっと笑った。
「でもね、お嬢さま、たまには夢の中でも良いから、亭主にもう一度だけ逢ってみたいと思うことがあるんです。―夫婦って、そんなもんですよ。惚れた何だって大騒ぎして一緒になって、その挙げ句、色々と喧嘩ばかりして。でも、片割れがいなくなっちまったら、気の抜けた鞠と同じ。やっぱり、あいつが傍にいないと駄目だなって、自然に思うようになります」
オクタンは、そう言ってから、布団に身を起こした。傍らを見やると、既に春泉は軽い寝息を立てている。
「大丈夫ですよ。あの若旦那さまとお嬢さまなら、きっとお似合いのご夫婦になれます。もう少しだけ、あの堪(こら)え性のない坊ちゃんを気長に見守ってみて差し上げて下さいませね」
オクタンは春泉の上掛けを直し、自分も布団に戻って眼を瞑った。