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淫らな死体~お嬢さま春泉の秘密~④

第8章 夫の秘密

  良人の秘密

 暦が五月に変わったその日、皇家に珍しい来客があった。半月前、皇家に輿入れしたばかりの嫁春泉の母チェギョンである。
 チェギョンはまず、気難しいと評判の姑芙蓉に手土産を渡して挨拶し、その後、娘の居間に案内された。生憎と、多忙を極める右参賛(正二品・議政府の役職)は王宮に詰めており、留守である。
「お母さま(オモニ)、ようこそいらっしゃいませ」
 父が亡くなるまでは何かと隔てのあった母子ではあるが、引っ越した小さな屋敷での二人だけの日々は、この母娘の間を少しずつ埋めてくれる役割を果たした。
 今も春泉は嬉しげに立ち上がり、出迎えようとしたのだが、生真面目な母は娘を制した。
「お母さま、久しぶりにお逢いできたのです。どうか、挨拶をさせて下さい」
 母に似て、娘もなかなか強情である。なかなか後へは引かない娘に、チェギョンは真顔で首を振った。
「今は、あなたが嫁ぐ前とは違うのです。もう、あなたは私の娘である前に、こちらの皇家の嫁です。更に、あなたは嫁ぐ前に、形だけとはいえ、孔家の養女となった身。私よりは、はるかに身分が上の立場になったのですから、私の方から拝礼するのが礼儀というものでしょう」
 結局、母の主張が通り、春泉は上座に座って、母から拝礼を受けることになった。実の親に丁重に拝礼されるなど、嬉しいよりは、居心地が悪くて仕方ない。
 やっと終わると、チェギョンは背筋を伸ばして娘よりやや離れた後方に座った。
「しばらくぶりでしたが、お元気でいらっしゃいましたか?」
 母が座るや、勢い込んで訊ねる娘に、チェギョンは重々しく頷いた。
「お陰さまで、元気にしていましたよ。あなたの方はどう? ちゃんと旦那さまにはお仕えしていますか? あなたは子どもの頃からどうも気が強いから―、旦那さまと上手くやっているかと毎日、気を揉んでいます」
 その鋭い指摘(?)に、春泉はどきまぎしながら、取り繕った笑顔を浮かべた。
 この母といると、何故かオクタンといるよりも緊張するのは物心ついたときから変わらない。

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